発達障害の人が「お金の使い方」に困ったときは? ASD当事者が提案するお金と上手に付き合うためのアドバイス

暮らし

公開日:2020/1/16

『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手にお金と付き合うための本』(村上由美/翔詠社)

 お金と上手に付き合うにはコツが必要だ。仕事で稼ぐことはもちろん、上手なやりくり、お金に困ったときの対処法など、知識や一定のテクニックがないと、あっという間に貯蓄が底をつく。

 そして発達障害を抱える人ほど、お金の使い方に苦労する傾向がある。そう指摘するのは『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手にお金と付き合うための本』(村上由美/翔詠社)だ。著者は、自身も「自閉スペクトラム症障害:ASD」を抱える村上由美さん。自治体の発育・発達相談業務を担い、発達障害関連の原稿執筆や講演を行っている。

 本書は、「稼ぐ」「使う」「貯める」「備える」「増やす」といった日常生活の5つの場面より、なぜお金の使い方に失敗するのか事例や原因を織り交ぜながら、お金を上手に使うためのアイデアを提案する。図解やイラスト付きで分かりやすいので、本を読むのが苦手な人も安心だ。本稿ではその一部を引用して紹介するので、お金の使い方に悩む人はぜひ参考にしてほしい。

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■【稼ぐときの困った】経費精算の締め切りを守れない

 経理部から経費精算を催促されても、うまくできなくて毎回諦める人がいないだろうか。ある人にとっては簡単な作業に思えても、「注意欠陥・多動性障害:ADHD」特性が強い人にとっては大変な労力となる。

・領収書をもらって適切に保管する
・領収書を経費の費目ごとに分類する
・パソコンを立ち上げる
・エクセルなどのソフトを開いて費目別に入力する
・締切日までに担当者へ送る

 これらのステップを1つずつクリアすることが難しいからだ。そこで著者が提案するのは主に3つ。まず領収書自体をもらい忘れる場合は、スケジュールアプリとタスクリストのアプリを連携させて、「タスクを完了させる仕組み」を作ろう。「領収書を絶対にもらう」という根性論的努力では改善が難しいので、仕組みで苦手を補う対策が不可欠だ。もし信頼できる上司や同僚がいる場合は、同行したときに「領収書を忘れないように」と声をかけてもらうなど、苦手な業務の相談をすることも1つの方法だ。

 そして領収書の保管場所に苦労する場合は、「ここに必ずしまう」という場所を決めて、とにかくそこへ保管する「習慣」を身につけよう。一般的に適切な保管場所は財布か手帳だ。しかし大きいサイズの領収書もあるので、100円ショップで販売されるチケットホルダーを活用してもいい。とにかく保管場所を習慣づけてしまえば紛失防止につながる。

 さらに費目別に入力する作業に苦労する場合は、上司や経理担当に相談して、会社が導入する経費精算システムを徹底利用すること。もし会社がシステムを導入していないならば、便利なアプリを活用しよう。本書では「電車の乗降時にタップするだけで、自動で今いる駅を取得して記録するアプリ」「交通費や宿泊費をCSVデータとしてファイル出力できるアプリ」「領収書を撮るだけでオペレーターが代わりに手入力してくれるアプリ」などを紹介している。入力ミスに苦しむADHD特性の強い人や「学習障害:LD」特性が強い人にうってつけだ。

 このほか「稼ぐ」の項目では、「親睦会での計算ミスに悩んだとき」「給料の明細書の見方が分からないとき」「スキルアップして収入を増やしたいとき」など、仕事で困ったときの解決方法を提案している。

■【使うときの困った】生活費が赤字になってしまう

 著者によるとADHD特性の強い人は、お金を使うことに快楽を覚えやすい。そしてLD特性が強い人は、どのくらい金額を使ったのか(残っているのか)イメージしづらい傾向にある。

 そこで最近流行りの「キャッシュレス決済」を活用したいところだが、ADHDやLD特性が強い人ほど「数字による管理」が向いていないこともある。明細に記載された“数字による”利用金額(残高)のイメージがつきづらいので、いつの間にか赤字家計になってしまうのだ。そこで著者が提案するのは、現金による管理。具体的には、ざっくりと毎月の予算を決めてしまおう。

 1つ目の例は「食べる、暮らす、遊ぶ」。食べる(食費)に25%、暮らす(食費以外の暮らしに必要な費用)に50%、遊ぶ(交際費や趣味、習い事)に25%、という割合で収入を予算分けしよう。

 2つ目の例は「消費、投資、浪費」。消費(日々の暮らしに必要なもの)に70%、投資(キャリアアップや生活を楽しむもの)に20%、浪費(発達障害の人は浪費しやすい傾向にあるので、あえて予算を設定する)に10%、という割合で収入を予算分けしよう。

 予算を決めたら、次は費目ごとに封筒を用意して、予算(現金)を入れて管理しよう。給料日から日が経つごとに、減っていくお金を目で確認することで、利用金額(残高)をより実感できるようになる。もし一度に大金を使うクセに悩んでいる場合は、費目ごとの予算をさらに4等分して、1週間ごとに予算を細かく管理する方法もある。

 ちなみにASD特性の強い人が家計を黒字にしたい場合は、むしろ家計簿や節約アプリ、キャッシュレス決済を活用しよう。家賃、食費、衣服費、交際費、消耗品費など、費目も細かく設定したほうが良いそうだ。

 このほか「使う」の項目では、「引き落としや払込みを忘れやすい」「家計簿が続かない」「衝動買いをしてしまう」など、日常生活で困ったときの解決方法を提案している。

■【備えるときの困った】年金や健康保険の支払いが負担

 発達障害の特性が強いほど、職場の業務や人間関係に悩み、退職や休職を余儀なくされることがある。そのとき年金や健康保険の手続きを適切にしておかないと、支払いに苦しむばかりか滞納して、資産を差し押さえされてしまうリスクもある。さらに失業保険の給付を逃してしまうかもしれない。

 しかしADHD特性が強い人は、手続きが面倒だからと先延ばしにしがち。また煩雑な手続きにうんざりして、ASDやLD特性の強い人も混乱しがちだ。

 様々な事情で社会保険料を支払うのが困難な場合は、とにかく必要な書類を持って自治体の窓口に駆け込もう。保険料の減免や免除、金銭的に余裕ができたときに後から支払う追納などの措置を取ってもらえる可能性が高い。どんなに気が重くても利用しない手はない。退職後、年金や健康保険、失業保険の申請時に持参すべきものは以下だ。

・離職票(もしくは失業した理由の証拠となるもの)
・前年の所得の証明となるもの(源泉徴収票や確定申告書)
・マイナンバーカード(もしくはマイナンバー通知カード+身分証明書)
・保険証または保険資格喪失連絡票
・年金手帳
・預金通帳
・印鑑

 特に健康保険は退職後14日以内に手続きしないといけないので、離職票を持参して、国民年金と国民健康保険の加入手続きをする際、「保険料を軽減する制度を利用したい」と相談しよう。

 また離職票を持参してハローワークで手続きを行い、雇用保険受給資格者証を作ろう。このときハローワークの担当者に事情を話して、離職コードが退職時の状況と合っているか確認してもらおう。自己都合退職よりも会社都合退職のほうが失業保険の給付条件が良いため、しっかり退職時の事情を説明したいところだ。

 私たちはお金がなくても幸せを手にできるが、まったくお金がない状況で暮らすことは不可能に近い。心身を削って得たお金は、できるだけ大切に使いたいところだ。そのアドバイスを授けてくれるのが本書であり、発達障害に悩む人ほど参考にしてほしい。

文=いのうえゆきひろ