郵便配達員として働きながら41歳で東大合格! 前代未聞の「学び直し」を後押ししたのは?

ビジネス

2020/1/14

『41歳の東大生』(小川和人/草思社)

 かつて受験勉強で毎日机に向かっていた人でも、一度社会に出るとなかなか勉強はできないものだ。勉強する時間をとることが難しい。1日の大半は仕事。帰宅しても疲労やさまざまな誘惑がある上に、家事もある。必要に迫られての資格試験の勉強ならばまだしも、受験勉強なんて今からとても無理…。そう思ってしまうが、世の中にはいたのである、働きながら6年間の受験勉強を経て東大に受かってしまう人が!
 
『41歳の東大生』(小川和人/草思社)は、大卒で郵便局勤務の男性(著者)が、41歳の時に、働いて家族を養いながら、東京大学に合格して通学するという、ドラマのような本当にあった話を書いた1冊。著者は、2020年現在すでに仕事を定年退職しているので、現在進行形の受験実況ではなく、淡々と当時のことを思い出すような格好だ。しかし、「なぜ自分は学問をもう一度やろうと決意したのか」という思いは、行間からも溢れる。

■再び受験、しかも東大受験を目指した理由は?

 小川さんはなぜ再び大学受験をしたのだろうか。1997年3月、合格した彼にTBSの記者が取材をしている。以下は、本書内に引用されている当時のニュースの一部だ。

《氏は、明治学院大学社会学部卒の四一歳、郵便配達員としての勤務を続けながら、大学入試に六年前からチャレンジし続け、この度の快挙に結びついた。氏の受験勉強時間は一日たった約二時間。帰宅すれば子どもをお風呂に入れ、休日は家族サービスに努めるごく普通のパパである。目標を哲学書の著作に置き、あらゆる学問をその基礎と位置づける氏は、まさに驚異の集中力により、この東大合格を実現した》

 本書内では、この取材時の模様を思い出しながら当時の本音も吐露している。なぜわざわざ大学に行くのか、という思いだ。理由は2つ挙げられている。

 ひとつは、「哲学」を基礎からがっちり学びたいという思いだ。1度目の大学生活で学問をする基礎は身についている。大学に行かなくても学問ができることは知っている。それでも、大学という環境で学問に触れたかったのだ。

 2つ目は、小学校しか出ていない父親の存在だという。小川さんのお父さんは、終戦で外地から復員後、働きながら独学で学問を積んでいったという。夜中にひとりで机に向かっている姿を何度も見たそうだ。さらに、45歳を過ぎて司法書士の資格を取り、65歳からはシルバー人材センターで技術を学びふすま張り職人となったお父さん。その後は、江戸川区の俳句教室の講師(生徒ではなく、なんと教える側!)になった、とのこと。父の背中から学んだものが相当大きかったのではないだろうか。

■大人の学び直しを成功に導いた要因は?

 実際の大学と仕事の両立をどうやってやり遂げたかについても、少し触れておこう。本人の頑張りは当然だが、周囲の人たちの協力が、現実的な成功を後押ししたという。

 まずは、家族の同意があったこと。それから、職場の協力が得られたことが大きいという。時代は郵政民営化以前だったことも関係するのかもしれないが、授業の合間に働くことができたという環境がすごい。上司や同僚は大変理解のある人たちで、上層部に掛け合ってくれたり、時には勤務時間を交代してくれたりなどと、全面的に応援してくれたのだ。おかげで、有給休暇の時間取得(1時間単位の取得)が認められ、早朝からの速達配達や土日勤務と引き換えに、平日のフレキシブルな勤務ができたそうだ。

 さて、東大を無事卒業して2度目の大学生活を終えた小川さんのその後は、どうなったのだろうか? 彼は、そのまま郵便局で定年まで勤め、学歴をキャリアに直接的に生かすことをしなかった。純粋に学問の海を泳いでわたることが、何より楽しいと感じたのかもしれない。やりたいことはできる限りやってみようという姿勢は、とても前向きだ。

 小川さんの学び直しを支えたように、近くにいる人の希望が叶うよう周囲が応援してあげられるような余裕が今後も消えないようにと願う。

文=奥みんす