標高の高い場所のほうが時間は早く進む!? わたしたちの常識を覆す“時間の概念”とは

スポーツ・科学

2020/1/24

『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』(吉田伸夫/講談社)

 2020年が始まってもうひと月近くが経とうとしている。よく「一月往ぬる二月逃げる三月去る」といわれるが、うかうかしていると時間は本当にアッという間に過ぎてしまう。

 ところで、こうした感覚は主観の問題に過ぎず、実際の「時間の経過」は常に一定だと誰もが当たり前のように認識していることだろう。では、ここで質問。そもそもその「時間が経つ」とは一体どういうことなのか、考えたことはあるだろうか?

 なんだか哲学的な問いのようにも思えるが、実は最新の物理学の世界ではこうした問いへの答えが用意されているという。しかも標高によって時間の流れに違いがあるなど、想像以上に多様な概念があるようなのだ。

 このほど登場した、科学的エビデンスに基づく信頼性で1960年代から定評のあるサイエンス系新書レーベル「講談社ブルーバックス」の新刊『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』(吉田伸夫/講談社)は、物理を専門に科学哲学など幅広い視野を持つ著者が、まさにそうした「時間」の概念を様々な角度から教えてくれる一冊だ。

■標高の高い場所の方が時間は早く進む?

 前述の「標高によって時間の流れに違いがある」ことは、日本の国立通信総合研究所が2000年から2年かけて行った実験で証明されている。標高の低い場所(標高84メートルの箇所)と高い場所(標高710メートルと816メートルの箇所)に精度の高い原子時計を置き、なるべく気圧や電磁波などの影響を受けないようにした上で原子の振動を比べたところ、低い場所で100兆回振動するはずのところが、高い場所では100兆8回と100兆13回になり、わずかながら時間が早く進むということが実証されたのだ。もちろん本書ではそれがなぜ起こるのか説明してくれるのだが、まさか自分の身の回りにこんな不思議が隠れていたとは驚きだ。

 目次を見ると「時間はどこにあるのか」「過去・現在・未来の区分は確実か」「ウラシマ効果とは何か」「時間はなぜ向きを持つか」「〈未来〉は決定されているのか」「タイムパラドクスは起きるか」「時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか」と、気になるテーマがズラリ。まるで哲学かSF小説の世界のようにも思えるが、こうした問いにコツコツ迫っていくのが理論物理学の世界なのだ(実はすでにタイムマシンの作り方も説明されているという)。本書はそうした最新の理論を平易に解説しつつ現時点の「答え」を示してくれていて、実に興味深い。

 著者によれば、私たちに実際に見えているものと脳の認知にはわずかなタイムラグがあり、私たちが「今、この時」と感じる「現在」の感覚も、実は過去に見たもので作られた「脳の捏造の結果」なのだという。一方、そうした「現在」の感覚を抱えて生きる私たちという生命が存在するのは、「時間」の始まりとされるビッグバンから考える宇宙の歴史の中では最初期のほんの一瞬のこと――なんだか頭の中の時間イメージが伸びたり縮んだりする不思議な刺激を受けるが、これぞ科学系読み物の醍醐味だ。

 テーマに興味を持ったなら、まずは手にとってみよう。ぼんやりでもイメージしながら読み進めれば、考えてもみなかった発見があり、新しい角度で「世界」が見えてくるに違いない。

文=荒井理恵