「好きなことを仕事に」は間違い? 自分を引き上げるヒントについて考えてみた

ビジネス

2020/1/30

『最高の絵と人生の描き方』(室井康雄/エクスナレッジ)

 好きなことで食べていけたらいいと誰もが思う。しかし、そんなことができるのは一部の人たちだけなのでは? 好きなことを生活の手段にするだけの自信を持つのは難しい…。そんな私たちの気持ちを少し明るくしてくれる本が『最高の絵と人生の描き方』(室井康雄/エクスナレッジ)だ。
 
 本書は、アニメーターである室井康雄氏が、画力向上に励む人たちの絵にアドバイスを加えながら、好きなことと人生との交わらせ方を綴る1冊。室井氏は、スタジオジブリを退社後に『NARUTO』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破、Q』などの人気作品に携わったのち「アニメ私塾」を開設し、絵を仕事にしたい人と趣味で描きたい人の両方に向けて、指導を行っている人物だ。

“〈うまくなる〉ということだけでなくそれ以上に、ほとんどの人が〈楽しく描くための最適化〉をできる場でありたい。そのためのノウハウを提供しています”

と室井氏は語る。絵やアニメに興味がないという人にとっても役立つメッセージが盛りだくさんだ。

■楽しいことは向いている。好きなことで自分を最大限喜ばせる

 私たちの多くは、「好きなこと・楽しいこと」と「向いていること」は違うと言われて育てられてきた。しかし、室井氏は、

“楽しくないことは、時間をかけたほどの成長が期待できません”

と一刀両断。確かに、「好きなこと・楽しいこと」は、義務でやることよりも、自然と多くの時間を費やすことができる。少なくとも、苦ではないだろう。

 とはいえ、好きなことでも出来上がったものを他人と比べると、あまりの下手さにがっかりという経験をした人は多いのでは。改めてその経験について、よく思い出してみてほしい。その比較は、経験の多さ少なさを考慮せずに、なされたものではなかっただろうか? 室井氏は絵を描くことが好きな人に向けて、

“「自分ってうまいなあ」とか、「描いた絵が素敵だな」と思う絵を描くことが大事”

と述べる。この考え方を絵以外に当てはめるなら、「今日作った料理、私史上最高!」とか、「バスケをやるときの俺って他よりいきいきしている!」という感じだろうか。

■好きなことを仕事にしてプロになる前に、素人でやり尽くせ!


 なぜ多くの人は、好きなことを仕事にしたい、と思うのだろうか? 圧倒的多数が同意するだろう動機として、「プロになれば、好きなことに当てられる時間が増える」という事実がある。ただ、仕事を通じて嫌な経験をすることもあるだろう。支払われるお金に応えなくてはならないからだ。しかしというか、だからこそというべきか、室井氏は、好きなことで食べていくことをゴールにしようと頑張ってはいけないという。

“(アニメーター志望者ならまずアニメを作ってみて)アニメはつくって楽しいらしいとわかってようやく、プロになることを視野に入れてください”

と述べるのだ。動画や書籍などの情報、あるいは無料のツールを使えばアニメ制作の入り口は学ぶことができるし、まずは好きなアニメのワンシーンを模写して動かしてみることでも楽しみ方としてはよいのだとか。

 アニメ業界の志望者でなくても、今できることをすべてやり尽くすと、その先にプロへの方向性が見えてくるというアドバイスは、どんな人にも当てはまるだろう。楽しいという気持ちを持ち続けたまま、これがライフワークだと思えるほど情熱を傾けていくうちに、「学び・時間・発表の場」において、より満足できる環境がほしくなる。その先に、「好きなことを仕事に」という目標が現実的に見えてくるのだろう。

 闇雲にゴールのために苦しいことを頑張る時代は終わりにしたい。好きなことや楽しいことは、今すぐ遠慮なくやって良いのだ。好きなことは、人前で誇れるような大がかりなことでなくてもいいはず。まずは「自分の好きという気持ち」を、否定しないことから始めてみよう。

文=奥みんす