全財産2万円を握りしめて島根から上京するもネカフェ難民に…。貧困女子の悲しき実態

社会

公開日:2020/2/13

『証言 貧困女子 助けて! と言えない39人の悲しき理由』(中村淳彦/宝島社)

 一億総中流社会は崩壊し、貧富の差が拡大している日本。なかでも深刻化しているのが、若者と女性の貧困だ。貧困や介護、AV業界の闇など、さまざまな問題に切り込むノンフィクションライター・中村淳彦氏の最新刊『証言 貧困女子 助けて! と言えない39人の悲しき理由』(宝島社)は、貧困に陥った女性たちの実態に迫るルポルタージュ。同書は「非正規女子」「シングルマザー」「介護女子」「ネカフェ女子」など、さまざまな状況に身を置く女性たちの独白と、中村氏による解説で構成されている。

 島根出身の木村ユズキさん(仮名・20歳)は、新宿にあるネットカフェに拠点を置き、時給1500円のガールズバーで働きながら日銭を稼いでいる「ネカフェ女子」だ。取材当時は、全財産の2万円をはたいて上京したばかりだったという。

 彼女がわずかな所持金を手に上京したきっかけは、高校卒業後に入社した地元のラーメンチェーン店の劣悪な労働環境にあった。

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「どんどん人が辞めていって、最終的には新入社員の私が1日18時間働かないと立ち行かなくなっていました。働いていた3カ月間は休みなしで、私はテンションを上げるためにお酒を飲んで接客をしていましたね。
 そのうち、本当にアルコール依存症になっちゃって、睡眠薬のオーバードーズをしたこともあって。(中略)働くどころじゃなくなったのでラーメン屋は辞めました」

 1年ほど療養した後、定職に就けず島根を出る決意をする。女手ひとつでユズキさんと彼女の姉を育てた母に上京の意思を伝えたところ、母は彼女を止めるでもなく「ママは援交と風俗であんたを育てたのよ」というカミングアウトをしてきたという。これが親元を離れるときに交わされた会話だと思うと、なかなかハードな上京物語だ。

 著者の中村氏は、女性たちが“貧困スパイラル”に陥るトリガーのひとつに「上京」を挙げている。前出のユズキさんを例にして「寮つきの風俗店やもっと効率のいい売春に流れていくのは時間の問題」と綴っている。

「私は上京から即不幸になる貧困女子たちを何人も眺めてきたが、ネカフェ難民になった時点でもう厳しい。実家に帰るか、福祉に頼るのがベストな選択といえる」(中村氏)

 ユズキさんは「事故物件でもなんでもいいから、部屋を借りて人間らしい生活がしたい」と話していた。彼女はすでに、貧困スパイラルに足を踏み入れてしまった可能性が高い。

 同書に登場する女性の多くが、過酷な家庭環境や貧困の現状を淡々と話しているのが印象的だった。彼女たちは、若くして“絶望すること”に疲れてしまったのかもしれない。『証言 貧困女子』はあなたのすぐそばにある、貧困の現実を突きつけてくる一冊だ。

文=田中ハルカ