前科21犯の著者が語る、笑いと涙のトンデモナイ犯行現場! プロの泥棒が防犯対策を教えます!!

文芸・カルチャー

2020/2/22

『今だから話せる泥棒日記』(青木一成/ベストブック)

 今の自分の仕事に、不平や不満を持っている人は少なくないだろう。もとより、望んだ仕事があっても就くこと自体が大変だし、つい他の仕事を楽しそうだとか楽そうと思ってしまうこともあるかもしれない。働くのなんかいやだ! とも。だからといって世中から外れて犯罪に手を染めたとしても、犯罪は仕事として捉えると割に合わないのではないか。下準備に手間を掛けたところで儲けが釣り合うとは限らないし、刑罰を受けるリスクを考えたら、変化に乏しくても毎日を平穏に暮らせる方が良いはず。

 ところがそんな想像を超えて20歳の頃から50年以上にわたって「泥棒」稼業を続け、儲けた金は約5億8000万円、刑務所に服役した年数は合わせて約42年という前科21犯、規格外な男がいる。この『今だから話せる泥棒日記』(青木一成/ベストブック)は、そんな著者による犯罪の告白であり、臨場感のある語り口は泥棒の職業体験をするかのようだ。

 営業職であれば、口の上手さと度胸が必須だろうし、臨機応変に対処できる頭の回転の速さも必要かもしれない。深夜に酒店に忍び込んだ著者は先客、先に侵入していた泥棒と鉢合わせると、悪戯心も手伝って家人に化けてしまう。先客は老人で、一升瓶を開け「あぁ、美味い。美味いのう……」と飲んでいたところに怒声を浴びせたうえ、「今から警察に電話するからな」と電話機に歩み寄る名演ぶり。そのまま「奥さんや子供が泣くぞ」と説教まで始め、泥棒爺さんの女房は3歳の娘を残して男と一緒に姿をくらまし、その娘も15歳のときに病気で亡くなったという身の上話を聞いた著者が娘の墓参りを勧めるものだから、読んでいるこちらも少しウルっときてしまう。いや、著者も泥棒なんですが。

 刑務所に服役している受刑者同士が、出所後に共謀して新たな犯罪に手を染めるという話を聞いたことがあるが、さしずめ同業者交流会といったところか。本書でも、「細い針金が一本あればマンションでも簡単に侵入できるし、金庫でも5~6分で解錠してしまう」と豪語する、まるで怪盗ルパンのような大泥棒と刑務所で出逢い、一緒に仕事をしたエピソードが語られている。ただしそこに至るまでも一悶着。先に出所した著者がさて大仕事、と彼を出迎えたところ「仕事をする前にゆっくり温泉に浸かって体を休めたい」と頼まれて旅館で芸者を呼んで豪遊した翌日に、彼に逃げられてしまい…。そう、実は大泥棒というのは嘘だったのだ。探し出して彼に拳を叩きつけて怒るも、「青木さんの弟子にしてください。お願いします」と深々と頭を下げられて許してしまう。自分の能力を誇大に語る人はいるから、仕事のパートナーを見る目は養っておきたいものだし、情けは人の為ならずともいうし、許すのもまた人の道といったところか。

 犯罪者と刑事が馴れ合っては困るとはいえ、宿敵とも呼べるライバルと心が通じ合うこともあるようだ。温厚な雰囲気を漂わせて被疑者の頑なな心を和ませるための世間話をする刑事と、証拠を突きつけられない限りは知らぬ存ぜぬの姿勢で貫き通そうとする著者のやり取りは、まさにドラマのワンシーンといった趣さえある。通常では逮捕されるとすぐに取り調べが始まるのに、何度も指名手配されている著者は、簡単な尋問だけで留置所に入れられたことがあり、看守に理由を尋ねると「旅の疲れがあるので考慮してくれたのではないか……」と云われたそうだ。また、犯行現場の検証に立ち会う“被害付け”は、被疑者にとっても刑事にとっても「日頃の署内生活」から解放されるのが嬉しいらしく、著者は遠足前日の子供のように寝付けなくなり、刑事の方は自腹を切って何でも食べさせてくれて、もはや同業のよしみといった風情すらある。

 なんにせよ、本書で語られている犯行の記録は、とりもなおさず防犯のヒントにもなっていて、それこそ仕事への姿勢も示している。すなわち、どんな仕事であっても経験や勘は大事だし、工夫や努力が必要で、最後には人情が自身の救いになるという人生訓だ。ただ、人見知りで頭の回転もよろしくない私としては泥棒の才の無い自分に安心する一方で、泥棒爺さんに説諭したり、騙されても相手を許したりしてしまう著者の人柄を考えると、会っても見抜けまい。「人を見たら泥棒と思え」という慣用句が一番の防犯対策という、なんとも皮肉な読書体験であった。

文=清水銀嶺