戦死者の遺品を返還する帰還兵が、自身の過去に隠された真実と向き合うとき――死とは何かを考えさせられる、圧倒的デビュー作

文芸・カルチャー

2020/2/22

『そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―』(酒場御行/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 日本最大級にして最高倍率の新人賞、電撃小説大賞。本年度の第26回で応募総数4607作品の中から〈選考委員奨励賞〉に選ばれ、選考会で大きな波紋を呼んだ話題作『そして、遺骸(ゆいがい)が嘶(いなな)く ―死者たちの手紙―』(酒場御行/メディアワークス文庫/KADOKAWA)が刊行される。

 舞台は、戦争の爪痕が生々しく残る軍事国家ペリドット。強敵スモークォ国との“森鉄戦争”にからくも勝利したものの、味方の犠牲も大きかった。最大の激戦地、クゼの丘の戦闘を生き抜いた狙撃兵キャスケットは、終戦後、陸軍遺品返還部に配属される。そこは戦死した兵士の遺品をその家族等に届けるという部署だった。任務を遂行しながらキャスケットもまた、自分自身にとっての戦争を追想する…。

 キャスケットは3人の兵士の遺品と共に旅をする。

 1人目は、自分と同期であり、クゼの丘で共に闘った一等兵サリマン。弟に宛てた手紙を渡すために彼の故郷を訪れると、そこにいたのは兄に代わって母と幼い妹を守っている少女アルマだった。

 2人目は、元楽器職人の兵長ノル。その婚約者で花街一の売れっ子娼婦のアニタに、故人が最期まで身に着けていた思い出の品を届ける。

 3人目は、高名かつ高潔な軍人レプリカ中佐だ。その息子のヴィーノ中尉の屋敷へ赴くと、そこには別人のように変わり果てたレプリカ中佐の姿があった――。

 この3兵士の共通点はクゼの丘で闘ったことだ。

 1万5000人以上の命が奪われ、生き残った者たちにも、その家族にも大きな苦しみと悲しみを背負わせた。優れた狙撃兵として勲章まで授与され、〈丘の軍神〉という異名まで持つキャスケットとて例外ではない。

 最初は物語の狂言まわしのような立ち位置だったキャスケット。しかし旅をするうちに死者たちの最期の慟哭を聞き、それを受けとる者の感情にふれ、彼は次第に能動的に動きだす。自分自身の心の底の方へと下りていき、自らの過去、つらい記憶に目を向ける。

 キャスケットが最後に訪うのは、兄官のベーゼだ。

 初年兵だった頃から戦場で生き抜くための技術や知識を教え込んでくれ、長年に亘って兄のように慕ってきた人物だ。

 そんな、恩人以上の存在である兄官に対してただひとつ、キャスケットにはわだかまりがあった。それについて問い質すのがずっと怖かった。戦争が終わり、もはや兵士ではなく人間としてどう生きて、どうベーゼに向きあえばいいのか分からなかった。

 それでも、葛藤しながらもキャスケットはベーゼに再び会いにいく。心身共に傷ついた自分たちが生き直すために。

死とは、うちに帰れなくなること。
体の死と魂の死は、繋がらない。
「(人の魂は)唯一、孤独になら殺されるわ」

 キャスケットをはじめ作中ではさまざまな人物が、それぞれの視点から死を語る。それは死についての箴言であると同時に、生についての言葉のようにも響いてくる。

『失われた命』と『残された命』。そんな死者と生者をつなぐ遺品を届けるキャスケット。彼の旅を通して死とは何か、生とは何か、そして人を愛するとは何なのかということが、切々と迫ってくる。

 架空の国の戦争物語でありながら驚くほどのリアリティがあり、戦記文学の風格さえ漂う衝撃のデビュー作だ。

文=皆川ちか

『そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―』作品ページ