器用に恋ができなくなった…そう悩む大人に刺さる粋でロマンチックな恋唄「都々逸」の世界

文芸・カルチャー

2020/2/26

『26文字のラブレター』(遊泳舎:編、いとうあつき:絵/遊泳舎)

 思い返せば学生時代の恋は楽しかった。気になる人との関係に一喜一憂しながら、誰かを好きになることそのものに喜びを感じていたと思う。それなのに、大人になってからの恋は結婚を意識するあまり、駆け引きと打算の上に成り立っているような気がして苦しかった。もう私は恋の仕方を忘れてしまったのかも…そう思っていた時に出会ったのが、『26文字のラブレター』(遊泳舎:編、いとうあつき:絵/遊泳舎)。本書に収められた恋にまつわる「都々逸(どどいつ)」は、人を想うことの素晴らしさを思い出させてくれる。
 
「都々逸」とは、江戸時代の終わりから明治時代にかけて、主に庶民の間で流行していた唄のこと。寄席で三味線を弾きながら唄われるなどして親しまれてきたため、難しい言葉は使われておらず、リズムは思わず口ずさみたくなるような「7・7・7・5」。
 
 初めて知ったという方も多いかもしれないが、実は都々逸のリズムは歌謡曲の歌詞にも応用されており、韻を踏んだり掛詞を用いたりする言葉遊び要素がふんだんにあるので、人気番組「笑点」のお題にもされている。
 
 そんな都々逸にはストレートな想いが込められた恋愛の唄が多くあり、本書では「恋に落ちる」「恋に破れる」「恋に溺れる」「恋に笑う」「恋いこがれる」「恋に狂う」の6テーマに沿う唄を、現代解釈を交えたイラストと共に紹介している。
 
 本稿では「恋に落ちる」と「恋に狂う」から、アラサー世代である筆者の心に染み入った“ラブレター”を2つお伝えしたい。

上手に恋ができなくなった大人女子へ

 年を重ねるにつれ、うまく恋に落ちることができなくなった。将来を考えない恋を純粋に楽しめるほどもう若くはない。目指すところは、結婚だ。しかし、ひとりでいる身軽さと一緒に暮らす不自由さを天秤にかけると迷いもする。心にモヤモヤを抱えたまま婚活をしていた自分はいつの間にか人を好きになる気持ちにブレーキをかけながら、将来的に自分が楽できそうだと思える相手とばかり恋愛をするように…。そんな時、目に飛び込んできた都々逸は恋の本質を思い出させてくれるものだった。

「一人笑うて暮らそうよりも 二人涙で暮らしたい」


 相手と一緒になることのメリットとデメリットを天秤にかけながら決めた未来。得られるものは安泰かもしれないが、心は満たされるだろうか? たとえ涙に濡れる日があったとしても一緒にいたいと願える相手と恋に落ちること。それこそが恋愛の醍醐味ではなかったのかと、この恋唄は問いかけているように思えた。

 2人でいれば、涙や苦しみさえも幸せの種にできる。そう思える相手に出会える日まで、この26文字は私の教訓として心の引き出しに大切にしまっておきたい。

狂気の中にある「一蓮托生」の想い

 大好きになれた人と恋愛し結婚できたとしても、あとどのくらい一緒にいられるだろうか? 婚活中に誕生日を迎えるたび、そんな不安が胸の中でざわめくようになった。生涯添い遂げたいと思える相手と一緒になれたとしても、「死」という別れは必ずやってくる。相手のことが大切であればあるほど、ひとりにならなければいけない時が恐ろしくなり、心惹かれる相手と出会ったり結婚したりすること自体が怖くなる…。

 けれど、このラブレターを見て心境が変わった。

「お前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む」


 愛した人を誰にもとられたくないという狂気の中に込められた“一蓮托生”に泣けたのは、筆者だけだろうか。もし、自分の死後にも、相手がこんな気持ちでいてくれるなら、出会いも結婚も死という別れも怖くないと思えそうだ。

 こんなに大切に思える人と出会い、もし相手が先に亡くなったらこのラブレターを唄いたい。それを目標に今年は、好きな人と恋に落ちるところから頑張ろうと思う。

 都々逸の魅力は、唄の中にちょっとした捻りがきいていて、ユーモラスな表現に泣き笑いさせられるところにもある。本書では都々逸の作り方も丁寧に解説されているので、言葉のリズム感が気に入った方はぜひオリジナルの恋唄を作ってみてほしい。

 26文字に込められた切実でひたむきな恋慕は、恋愛迷子になった大人の心にやさしく刺さる。

文=古川諭香