40年以上にわたり「双極性障害」と向き合った兄弟の、壮絶な実話に基づく物語

暮らし

2020/3/26

『弟は躁うつ病 -双極性障害四十年の記録-』(木内徹/星和書店)

 40年の月日をまだ生きたことのないぼくにとって、その年月の長さは想像もつかない。ましてや、障害と向き合った激動の40年間だ。しかしそんなぼくでもその切実さを読み取ることができるのが、『弟は躁うつ病 -双極性障害四十年の記録-』(木内徹/星和書店)である。

 躁うつ病は、現在では双極性障害と呼ばれている。気分が高揚し、眠らなくても平気で、活動的になりすぎてしまう「躁状態」と、気分が落ち込み、何をしても楽しめないような「うつ状態」の両方を行ったり来たりする障害だ。気分の波によって、人間関係や社会的信用、仕事や家庭が不安定になり、生活に支障をきたす人が多い。

 本書は実話をもとにし、2歳年上の兄・秀一の視点から、双極性障害のある弟・龍二の姿が描かれるフィクションだ。

 本書の重みは、何と言っても20歳から63歳までの40年以上にわたる長い時間を、一冊で一気に駆け抜ける点にある。説得力があり、双極性障害のひとつの実像が如実に浮かび上がってくる。

 龍二は1955年生まれだ。ミッション系の高校を卒業して大学生活を送っていた20歳のある日、「僕はキリストなんだ」と言い始める。躁状態だ。一晩中起きていて、夜が明けると「キリストだ」と思っている自分のため、両親にさまざまな要求を突きつける。憔悴しきった両親は、ついに救急車を呼び、龍二は入院することに。病院では、縄でぐるぐる巻きに縛られ、おとなしくなるまで竹刀で叩かれた。かつての精神科医療の闇である。

 そんな折、もともと難病を患っていた父が亡くなった。龍二のケアの負担は、突如として秀一に降りかかってくることとなった。

 秀一は試行錯誤した。あるときには、アメリカで心理分析学を学んだ人が開いた施設に通った。1時間1万円のカウンセリング料を何度も払った挙句、3カ月で100万円かかる住み込みの治療プログラムを受け始めたが、龍二はわずか10日ほどでトラブルを起こし、退所させられてしまう。

 驚くべきことに、20歳から精神科に通院した経験のある龍二が躁うつ病の診断を受けたのは、それから16年後の36歳だった。診断を受けてから、躁状態を自覚し、それまで起こしてきたトラブルを繰り返さないよう対応を考えるようになるが――。

 精神疾患の当事者において、親の手記や成人のうちでも一定の時期を切り取ったエッセイなどは多いが、43年間にも及ぶ期間を兄の立場から描いた本書は貴重だ。

文=えんどーこーた