あの意外な“いきもの”が「未来の食材」として有望!? 奥深い食文化の多様性

スポーツ・科学

2020/3/20

『じつは食べられるいきもの事典』(松原始、伊勢優史:著、ぽんとごたんだ:絵/宝島社)

 私たち人間は生きていく中でさまざまな食材を口にする。食文化は国によって異なるため、海外の食生活に衝撃を受けることもあるだろう。しかし、「食べられるもの/食べられないもの」の線引きはどこにあるのだろうか? 『じつは食べられるいきもの事典』(松原始、伊勢優史:著、ぽんとごたんだ:絵/宝島社)を通じて食文化の多様性に触れると、そう思わずにはいられない。
 
 本書はコミカルなイラストを交えながら、「まさか食べるの!?」というさまざまないきものの風味や食べ方を紹介。著者の松原氏は『カラスの教科書』などの著作がある動物行動学者で、伊勢氏は海洋生物学者。2人の専門家が手がけた斬新な「いきもの事典」には、人間の奥深い食の歴史も収められている。

嫌われもののカラスは食べられる! でも注意点は…?

 普段街中でも目にする鳥は身近すぎて食用には思えないが、実は食べられる。例えば、カラス。カラスは中国や韓国の一部地域で実際に食されており、中国では漢方薬の材料になることも。また、昔のフランス料理ではジビエ食材のひとつとして扱われ、小説『レ・ミゼラブル』を書いたヴィクトル・ユーゴーも食べたとされている。

 気になるお味は、レバーに似ているのだとか。肉は筋肉質で硬いため食べられる部分は少なく、加熱しすぎると生臭くなりやすいのが難点だが、コツを押さえれば鶏肉のような旨味が楽しめるのだそう。


 ちなみに昔から食べられてきたのは、都会でよく見かけるハシブトガラスではなく、自然が多い地域に生息するハシボソガラス。真っ黒なカラスにも色々な種類があるということも、この際あわせて頭に入れておきたい。
 
 身近ないきものが、実は食用になるという事実。それを知った時、あなたの食に対する価値観はどう変わるだろうか?

あの虫たちが「未来の食品」になる!?

 秋になると美しい音色を響かせるコオロギは、アジアを中心に食べられている昆虫。タイではたくさんの農家が食用のコオロギを育てている。コオロギは虫の中でも特に味にクセが少なく、焼いた海老のような風味であるため食べやすく、また増産しやすいいきものなのだ。

 そんな長所に今、世界中が注目。虫を食べる文化がなかった国でも工場でコオロギを生産しコオロギ食品を作り始めているという。その結果、コオロギをパウダーにして練り込んだパスタや、コオロギふりかけ、コオロギチョコなど新しい食べ方が続々と誕生中。日本の食品市場にコオロギが並ぶ日もやってくるかもしれない。

 また、同様に私たちに衝撃を与えるのがカイコだ。かつて中国や韓国、インドネシア、そして日本では養蚕を行って、カイコを食べる文化もあった。そんなカイコは近ごろ「宇宙食」として注目を集めているという。

 カイコは他のいきものよりも少ないエサで早く育ち、栄養分も豊富。その卵は小さくて手軽に運べることから、宇宙について研究を進めるJAXAが目を付けたのだ。カイコやコオロギだけでなく、あっと驚くようないきものが当たり前のように食される未来がやってくるのも、もしかしたらそう遠くないのかもしれない。

 本書には他にも、日本各地の知られざる食文化や、日本以外ではあまり食べられないといういきもの、また過去に食べられていたという意外ないきものを紹介。漢字には読み仮名がふられており、子どもでもわかるようにイラスト付きでやさしく解説されているので、食育本のひとつとしても役立ちそうだ。

 食文化は地域によって違いがあるだけでなく、時代と共に変化していく。今、私たちが普通に食べているものも、未来では口にできなくなっているかもしれない。だからこそ、目の前にある命を食事としていただくことに改めて感謝を示したい。読後にはきっと、食卓に並ぶ命に向かって、心をこめて「いただきます」と「ごちそうさま」をいいたくなるはずだ。

文=古川諭香