全小説家志望者必見! 人気児童書作家が小説形式で教える「めんどくさがり」のための文章術

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2020/3/24

『めんどくさがりなきみのための文章教室』(はやみねかおる/飛鳥新社)

 メールや資料作成、企画書など、長めの文章を書かなくちゃいけない場面はいくつもある。メールの返信ならば聞かれたことに答えるだけでいい。けれども資料作成や企画書は、読み手のために情報や意図を分かりやすく伝え、さらに重要なポイントを引き立てなくちゃいけない。だから文章の書き方に苦労する。そのうち書くのが面倒になって作業を放り投げたくなる。

「もっと自分に文章力があれば、こんな面倒な思いをしなくて済むのかな…」。そんなことを少しでも考えたことがある人は『めんどくさがりなきみのための文章教室』(はやみねかおる/飛鳥新社)を参考にしてほしい。

めんどくさいと思うことは才能!
めんどくさいと思うから、まとまりのある文章ができあがる。

 読者を勇気づけて、文章がうまくなるテクニックをいくつも教えてくれるのだ。著者は、小中学生に絶大な人気を誇る作家・はやみねかおるさん。「名探偵夢水清志郎」や「都会のトム&ソーヤ」など、累計510万部以上の大人気シリーズを生み出してきた「児童向け推理小説書き」のスペシャリストだ。そんなはやみねさんが、小説チックに文章の書き方を教えてくれるのだから、小中学生はもちろん、はやみねさんの児童書で育った大人たちも、物語に没入していくうちに気づけば文章が書きたくなるに違いない。

 本書のあらすじは、ざっとこんな感じ。ある雨の日、中学2年生の主人公・文岡健は、ブクブクに太った真っ黒のしゃべる猫、マ・ダナイと出会う。ダナイは小説家の家で飼われていたので、文章の書き方に詳しい一面がある。作文の宿題に頭を悩ませていた健は、この奇妙で偉そうな猫を渋々家で飼うことに。この日から健は、ダナイの指導のもと、文章がうまくなる練習をいくつもこなしていく。

 この2人の軽妙な会話劇も読みどころのひとつ。けれども本稿では横に置いて、ここからは本筋である、文章がうまくなるテクニックをいくつかご紹介しよう。

面倒なときほどまとまりのある文章を書くチャンス!

 文章を書くことが苦手な人にとって、資料作成や企画書は面倒で仕方ない。しかし面倒に感じる人ほど上手な文章が書けるかもしれない。

 たとえばダラダラと冗長な文章に出会うと、読み手は目を回して苦戦する。文章は書くのも、読むのも面倒だ。だから良い文章の特徴として「内容がコンパクトにまとまっている」が挙げられる。まずは健が書いた「ダメな文章の例」をみてみよう。

 今日は、体育でバスケの試合をした。ぼくらのチームは、4試合して2勝1敗1わけだった。1試合目はバスケ部員のいるチームとの試合で、勝てなかった。2試合目はバスケ部員はいなかったけど、運動神経のいいやつらが集まっていて、引き分けだった。3試合目と4試合目に勝てたのは、敵のミスと、ぼくが打ったスリーポイントシュートが入ったからだ。みんなは、まぐれだと言うけど、ぼくが放課後にスリーポイントシュートの練習をしていたことを、みんなは知らない。そのあとの給食の鶏肉のチリソースは、とてもおいしかった。

 ふーむ、冗長で読みづらい。この文章の最大の問題点は、読み手に何を伝えたいのか決めきれていないこと。文章のポイントがまとまっていないのだ。

 そこでダナイは「健が書きたいことはなに?」と聞く。健は「バスケの試合で活躍したこと」と答えた。

 ならば前半の「1試合目と2試合目の結果」や「鶏肉のチリソースがおいしかったこと」は必要のない情報。ダラダラ書くのは面倒なので、思い切ってカットしよう。ただし「鶏肉の~」という一文を、「給食がおいしかった」に書き変えて、勝利の余韻を出す方法もある。

 というわけでダナイが添削した文章が以下だ。

 今日は、体育でバスケの試合をした。1勝1敗1わけで迎えた第4試合。ぼくのスリーポイントシュートで勝つことができた。みんなは、まぐれという。でも、彼らは知らない。ぼくが、放課後にスリーポイントシュートの練習をしていたことを――。
 そのあとの給食はとてもおいしかった。

 このように伝えたいポイントをコンパクトに引き立てて書くだけで、「冗長な文章」が「読ませる文章」に生まれ変わる。

 ここでおさらい。「文章を書くのがめんどくさいな」と思ったときは大チャンス! まずは読み手に何を伝えたいのか、ポイントをぎゅっとしぼってみよう。しぼりきれないときは「Twitterでつぶやくならどうする?」と考えてみるといいそうだ。

 ポイントが決まれば、コンパクトを意識して書いてみる。無駄な情報をどんどんカットして、伝えたいことだけを文章に入れ込んでいこう。これができれば書き手も読み手も、みんなハッピーな文章が生まれるのだ。

表現豊かな文章を書くには読書が不可欠

 このほか本書では、「テレビの食レポのように五感を使って表現してみよう」、「自分の気持ちを“記号”にして文章に織り交ぜよう」、「リンゴをスケッチするように、五感を使いながらリンゴを“文章”でスケッチしてみよう」など、目を引くテクニックがたくさん紹介されている。

 それらをご紹介するべきなのだろうが、本稿では別のポイントにもふれたい。はやみね先生は文章のテクニックを向上させた「先」を、つまり小説家になる方法も紹介している。その最も基本的な練習が、読書だ。

読書は、文を書くための基本。
たくさん読めば読むほど、自分の中に文章が溜まってくる。
そして、それは、文を書くときの燃料になる。

 なるほど小説家になりたいならば、作品をたくさん知らなくちゃいけない。小説という教科書を読まずして文章は書けないわけだ。

 さらに小説や映画など、好きな作品の「感動ポイント」を探すことも大切だ。本書では映画『ローマの休日』を例に挙げている。

 健は、ダナイと一緒にローマの休日を観て、感動して泣いた。大人のラブロマンスに感化されてしまったのだ。そこで「恋愛小説を書きたい」と決意する。けれどもダナイは「できあがるのは駄作だから書かないほうがいい」と痛烈に否定した。なぜダナイはこんなことを言ったのか。

 素敵な作品には、私たちの心を強く揺さぶる場面がいくつもある。ところが心揺さぶられた場面の本質を分かっていないことも多い。ローマの休日ならば、「宮殿を抜け出した王女に振り回されるコメディ要素」なのか、「王女と新聞記者という身分の違うふたりの恋愛要素」なのか。小説を書きたい人ほど、どの場面のどの要素で感動したのか、自分の心を俯瞰で見つめなくちゃいけない。

 ダナイに「ローマの休日で感動した場面とその理由」を聞かれた健は、思案して「床屋のシーン」と答えた。

うん。今まで息苦しい生活をしていた王女が、髪を切って、とても自由になったように見えた。それを見て、いいなぁって思ったんだ。

 健が感動した場面の要素は「今まで不自由で苦しんでいた人が自由になる、その喜びや開放感」といえる。これを理解せずに健がありきたりな恋愛小説を書いてしまうと、本来書きたい作品とまったく違うものができてしまい、自分で自分の作品に困惑しかねない。

 小説家を目指すならば、好きな映画やドラマをたくさん観て、どの部分に感動したのか自分に問いかけてみよう。そこから出てきた答えが、本当に書きたい「小説のテーマ」になる。

 文章を書くことは、とても厄介だ。誰かと対面で話すときは雰囲気やニュアンスで伝わるけれど、文章は文字からしか情報が伝わらない。結果、社会人は資料作成や企画書を面倒に感じ、小説家志望は大事な原稿を投げ出してしまう。

 けれどもめんどくさいと感じたときほど大チャンス。そこには工夫や進化の余地があり、乗りこえられたときに自分の成長が待っている。そうやって努力を続けるうちに、いつの間にか資料作成や企画書が得意になったり、小説家デビューの夢が叶ったりするものだ。きっと本書は、そのきっかけとなってくれるはずだ。

文=いのうえゆきひろ