一流のCM監督を目指す矢先に告知された眼の難病…苦悩の中で前に進む青年の成長物語

文芸・カルチャー

2020/3/26

『それでも、僕は前に進むことにした』(こかじさら/双葉社)

 大人になるにつれ、ひとつひとつできることが増えていくのは当たり前のこと。きっと誰もがそう思っていることだろう。だが、病はいとも簡単に人の可能性を奪う。今日できていたことが明日にはできなくなるかもしれない。そんな未来が明らかになった時、あなたならその現実とどう向き合うだろうか。

『それでも、僕は前に進むことにした』(こかじさら/双葉社)は、眼の病に冒された若手広告マンの苦悩と成長の物語。あなたがもし、近い将来、失明するという告知をされたとしたら、一体どうするだろうか。絶望して、気力を失っても仕方がない事態に思える。だが、この主人公は違う。病に冒されても、もがきながら(とか)必死に夢に向かって進み続ける姿は圧巻。辛いことがあっても、懸命に前を向こうとするその姿に勇気づけられる思いがするのはきっと私だけではないはずだ。

 主人公は、広告制作会社で働く若手AD・岡本勘太郎。彼は幼い頃からCMが大好きなCMオタク。人の心に残るようなCMを作ることを夢見て、誰よりも熱心に仕事に励んでいた。だが、ある日、勘太郎は、自分が「網膜色素変性症」という難病に冒されていることを知る。それは、数年から数十年かけて視野が狭くなっていき、いつの日か失明する可能性もある病で、現状では根本的な治療法はない。現実を受け入れきれず、絶望の日々を過ごしていた勘太郎。しかし、東京オリンピックとパラリンピックに向け、世界的メーカーの企業広告のコンペが開催されることを知った勘太郎は、人生をかけて挑むことになり…。

 勘太郎の病の進行はかなり緩やかだ。すぐに眼が見えなくなるわけではないが、ゆっくりと、確かに視野が狭まっていく。告知された精神的ダメージは想像を絶するものだろう。勘太郎も最初は何事にもやる気が出ない日々を過ごしていた。おまけに難病に冒されている旨を伝えた会社の対応はあまりにも冷たい。表向きでは、上司は「しっかりサポートしていく」と言い、勘太郎へ障害者雇用への切り替えと庶務への異動を提案するが、裏では「はやく辞めてほしい」と陰口を叩く。そんなあまりにも酷い対応に、勘太郎はますます追い詰められていくのだ。

 だが、コンペに挑戦すると決めた日から勘太郎の気持ちは少しずつ前向きになっていく。次第に勘太郎の周りに集まってくる協力者。人に頼るのは決して悪いことではない。とにかく、難しく考えずに、動いてみるしかないのだろう。がむしゃらに動き始めてこそ、可能性が開かれていくのだ。果たして勘太郎の作るCMはコンペでどんな評価を得るのか。人の心を動かすCMを作りたいという夢を叶えることはできるのだろうか。

そう。自分が描いていた未来に向かって進む過程でもがくのが人生だって。思い描いていたのとは異なる道を歩むことになったとしても、腐らずに歩き続けていると、別の道を歩いたからこそ見つけられるものがあるって。

 全力で進み続ける主人公の姿に、希望が持てない日々を過ごすあなたも、きっと元気をもらえるに違いない物語。

文=アサトーミナミ