ウーバーという革命的新企業を作り上げ、追放された「狂犬」の明と暗! 知られざる内幕

ビジネス

2020/3/30

『WILD RIDE(ワイルド ライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(アダム・ラシンスキー:著、小浜杳:訳/東洋館出版社)

「われわれは選挙戦を戦っているんですよ。ウーバーが候補者で、対立候補はタクシー業界っていう名のクソ野郎です」

 ウーバー(Uber)は、スマートフォンの操作ひとつで簡単に配車してもらえるサービスだ。アメリカの企業ウーバー・テクノロジーズが運営するこの事業は、タクシーの配車もできるが、なんといっても特徴的なのは、ウーバーに契約している一般のドライバーが、自家用車を使って他人を運ぶという仕組みを作り上げた点である。つまり、プロの運転手ではない普通の人でも、空いた時間に手軽に稼ぐことができるのだ。ちなみに、日本では白タク行為にあたるため一般人の旅客輸送は現時点で認可されていないが、同じ仕組みを利用した料理宅配サービスのウーバーイーツ(Uber Eats)が広がっている。

 この画期的なアイデアにより、ウーバーは2009年の設立以来急速に売り上げを伸ばし、サービスは世界中に広まっていった。2018年には世界の700以上の都市でサービスが展開されており、2018年の総利用回数は52億回に達したという。しかし一方で、ウーバーはさまざまな問題も抱えている。たとえば、待遇改善を求める契約ドライバーたちから巨額の補償金を求める集団訴訟を起こされており、契約ドライバーによってなされた女性客への性的暴行は世界中で社会問題となっている。さらに、社内におけるセクハラの告発、他社の営業秘密盗用、会社ぐるみのアプリの不正改造、多額の資金を投入しながらの中国市場からの撤退などなど…。

 これら、ウーバーを巡る「明暗両面」の話題の渦中に常にいたのが、創設者のひとりでCEOを務めていたトラビス・カラニックである。『WILD RIDE(ワイルド ライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(アダム・ラシンスキー:著、小浜杳:訳/東洋館出版社)は、多くの起業家たちから憧れのロックスターのように扱われるカラニックの半生とウーバー躍進の内幕を描いたノンフィクションだ。

 もともとカラニックは、シリコンバレーに数多くいるIT起業家のひとりであった。ただ、アップル社のスティーブ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグなどのように若くしてすぐに成功したわけではなく、カラニックがウーバーを立ち上げたのは30歳過ぎのこと。それまでに最初の起業に失敗するなど、くすぶっていた時期も長い。その経験が、彼のビジネスへの執着心の強さと野心の大きさにつながっていると本書は指摘する。

 そしてカラニックは、トラブルが起きることをいっさい恐れない闘争心を武器に、従来の業界ルールやときには法律さえ無視しながら、成功を求めてしゃにむに突き進んだ。そのある種の強引さがウーバーの飛躍的な成長につながったことは間違いない。

 だが同時に、カラニックのもつ過剰な攻撃性と独善性が、ウーバーのさまざまな軋轢を引き起こす原因ともなったようだ。ウーバーのビジネス・ライバルは従来のタクシー業界だが、それについてカラニック自身が語った言葉が冒頭の引用である。実際にはタクシー業界の既得権益体質を指して「クソ野郎」とののしっているのだが、タクシー運転手を蔑視していると受け取られ、カラニックとウーバーは大きな非難を浴びることとなった。カラニックはたびたび舌禍事件を起こし、その都度自身と会社の評判を落とした。

 著者はこのカラニックの性格上の問題を、「あきれるほどの共感力のなさ」ゆえと分析する。カラニックは2013年ごろから自動運転技術に注目していたというが、この技術が実用化されれば、ウーバーの契約ドライバーたちは当然ながら仕事を失うことになる。そのことについてカラニックはインタビューで、

「うちのパートナーになっているドライバーが相手なら、こう言いますね。『いいか、これが世界の趨勢だ。この流れに乗らなかったら、ウーバーは消える。だからこれが未来だと諦めろ』ってね。テクノロジーとか人類の進歩って、そういうものじゃないですか」

と淡々と答えているのだ。もしあなたなら、こう語る経営者の下で働きたいと思うだろうか? いまの日本では、本心はともあれ公然とこのようなことを口にする経営者は、どう考えても共感を得られない。さすがにアメリカでもカラニックの言動は目に余る部分があったのか、2017年に彼は自分が作り上げたウーバーから追放されてしまう。

 だが彼には、ポル・ポト政権下でカンボジア人が舐めつくした辛酸や、インド・ムンバイのスラムの住人の苦しみに心を痛めるという感情的な側面もある。しかし、地元のサンフランシスコのホームレスには何もしようとはしない。――それが、カラニックという人間の両面性なのだ。彼は、ウーバーから追放された翌年にすぐさま新会社を設立している。
 
 そんな「狂犬」カラニックの強烈な個性と躍進・失墜の軌跡を、本書でぜひ味わってみてほしい。

文=高坂笑/バーネット

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