メスなのに立派な偽ペニスを持つアフリカの動物! 動物たちの悪知恵を集めた生存戦略図鑑

スポーツ・科学

公開日:2020/4/12

『悪のいきもの図鑑』(竹内久美子:著、もじゃクッキー:イラスト/平凡社)

 動物の意外な生態をコミカルに記した動物図鑑が人気だ。ブームのさきがけとなった『ざんねんないきもの事典』を読んで、動物の生態に改めて興味を持ったという方は、きっと多いはず。
 
 そんな方にぜひともおすすめしたいのが、少し変わった視点から動物について学ぶことができる『悪のいきもの図鑑』(竹内久美子:著、もじゃクッキー:イラスト/平凡社)。本書は、動物たちの「悪知恵」にスポットを当てた、とてもユニークな動物図鑑。知られざる厳しい掟やおかしな性行動など、全4章にわたり、動物たちの“したたかな生存戦略”を紹介している。

アデリーペンギンは“石のため”に売春する


 愛くるしい見た目で人間を虜にするペンギンは、水族館でも人気者。交通系ICカード「Suica」のモデルになっているアデリーペンギンには、衝撃的な性行動が見られるという。なんと、石を得るためにメスが売春するというのだ。
 
 アデリーペンギンにとって石は唯一、巣の材料になる貴重な資源。そのため、すでに他の個体が作った巣から石を盗み出そうとするものが現れたり、石をめぐってオス同士が争うこともある。

 そんな中で、一部のメスは自らの“体”を武器にする。究極の一手として、パートナー以外のオスと交尾して石をひとつ持ち帰ったり、交尾をすると見せかけて、ちゃっかり石だけをちょうだいしたりすることがあるというのだ。
 
 ちなみに、他のオスと交尾をするという性行動には、石を得るという目的以外に、今のパートナーがいなくなった時の後釜候補になるという将来の保険的な思惑も隠されているよう。どの世界でも女性はたくましく、賢い…。アデリーペンギンのしたたかな性行動を知ると、そんな考えが頭をよぎってしまう。

advertisement

メスなのにペニスがある! ブチハイエナの不思議


「これほど不思議な動物を私は知らない」と、著者の竹内さんが感服するほど特殊な体を持つのが、ブチハイエナ。ブチハイエナのメスはオスよりも身体が大きく、信じられないことに偽のペニス(擬ペニス)と偽の睾丸(擬陰嚢)を持っているのだという。
 
 この擬ペニスはクリトリス(陰核)が発達したものだが、本物を上回るほど立派。尿道も合流しているので、メスなのに立ちションも可能だ。

 ただ、ユニークな構造をしているがゆえに出産時には苦労する。メスの膣は陰唇が癒着し、出口が閉じている。膣は擬ペニスとなったクリトリス経由で外に通じている。それはつまり、子どもが擬ペニスを通って生まれてくるということ。
 
 擬ペニスを作ったことなどもあり、同じ体格の哺乳類よりもブチハイエナの産道は60cmと、とても短い。産道の途中には鋭く曲がるヘアピンカーブがあるため、胎児は途中で圧迫死してしまうケースもあるそう。
 
 さらに、ブチハイエナのへその緒は短く、12~18cmしかないため、胎児はへその緒が切れた状態で生まれてくることも多く、酸欠で窒息死してしまうことも。子の60%が死産しているという悲しいデータも報告されている。

 これだけのリスクがあるにもかかわらず、なぜブチハイエナのメスは“オス化”したのだろうか。その理由は本書内で詳しく解説されているので、ぜひ“不思議のワケ”を確かめてみてほしい。

 そんなブチハイエナの交尾は、これまた不可思議な仕組みで行われる。多くの謎を秘めたブチハイエナは、もしかしたらとても進んだ生存戦略を選択した動物なのかもしれない。

 ド肝を抜かれるような動物たちの「悪知恵」には、自分の遺伝子を残し、種を繁栄させるためのエッセンスが詰め込まれている。ピュアなだけではない「悪」の動物の世界。そこには、人間が生き残るヒントも隠されていそうだ。

文=古川諭香