“病弱設定”の少女が皇子に愛人契約を迫る!『仮初め寵妃のプライド』は一風変わった逆襲のラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/16

『仮初め寵妃のプライド 皇宮に咲く花は未来を希う』(タイガーアイ/一迅社)

「どうかわたくしを愛妾にして下さいませ!」「(そして時期が来たら)殿下にはぜひともわたくしを捨てていただきたいのです」…一風変わったラブストーリーが発売になった。それが『仮初め寵妃のプライド 皇宮に咲く花は未来を希う』(タイガーアイ/一迅社)だ。投稿サイト「小説家になろう」では700万PV超え。大きな話題になった作品である。

 変わったラブストーリーと書いたが、話はシンプル。妾妃(しょうひ)、つまり愛人である主人公ヴィアトーラ(以下ヴィア)と、皇子・アレクとの愛を描いている。変わっているのはヴィアである。冒頭のセリフのように、彼女は“期限付き妾妃(しょうひ)”という型破りな提案をするのだ。

病弱設定のヴィアトーラ皇女、皇子アレクに“愛人契約”を迫る

 物語の舞台となる国、アンシェーゼは無類の女好きの皇帝・パレシスがおさめていた。皇帝は侍女や踊り子にも手を出して子をもうけており、中でもパレシスが執心だった寵妃が元踊り子のツィティー。彼女の儚げな美貌は王の寵愛をほしいままにし、その賢明さで臣下にも慕われていたが、残念なことに彼女は5年前にこの世を去った。ツィティーにはふたりの子供がいた。ツィティーの連れ子で、皇帝の第四皇女となったヴィアと、皇帝との間に生まれた異父姉弟の第二皇子・セルティス。母の美貌を受け継いだヴィアは、困ったことに母の死後しばらく経ったころ、皇帝から妾妃になるよう仄めかされる。

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 病弱でほとんど皇帝や皇子たちの前に姿をみせなかったヴィアだが、実はそれはフェイクだった。欲望うずまく皇宮で権力争いなどに巻き込まれないよう、儚げな見た目を生かして、病弱設定をつくりあげていたのだ。それを完全に信じていた第一皇子・アレクの前にヴィアが現れる。彼女は元気にこう言う。

殿下。どうかわたくしを、殿下の愛妾にして下さいませ!

 そして彼女は、皇帝に誘われたが、受けると第二皇子という立場が微妙な弟のセルティスが後継者争いに巻き込まれかねないこと、そしてヴィアの特殊能力により弟が殺される予知夢をみたことを告げる。

 その恐ろしい未来を変えるには皇帝ではなく、第一皇子の庇護を得ることが必要で、さらに驚いたことに皇子の立場が安定し、弟の安全も保障されたら、自分を捨ててほしいと言う。市井に降りて第二の人生を送りたいと。つまり期限付きで自分の身をアレクに差し出すというのだ。

 最初は元気によくしゃべるヴィアに気圧(けお)されたアレクだったが、彼は皇宮を、ひいては国をこれ以上乱さない、というメリットを感じ、彼女の提案を受け入れる。

 こうして皇帝の寵妃の連れ子だったヴィアが、第一皇子・アレクの期限付き妾妃になるという奇妙な関係がはじまった。

美しく聡明で逞しい妾妃に振り回される皇子…ふたりの愛は成就するのか

 ヴィアは美しく、強く魅力的なヒロインだ。親に愛されず皇宮の勢力争いを孤独に戦う皇子・アレクは、彼女の一風変わった魅力にすぐに気がついた。

 一見儚げな美貌にもかかわらず、頭が切れて度胸も据わっており、口も達者。なにより生命力に満ち溢れている。ヴィアはなんとひとり城を抜け出して、城下町へ出かけていたというのだ。彼女はアレクの知らない現実、考え方、生きる術を知っている女性だったので、アレクはだんだんと共に過ごす時間をかけがえのないものに感じていく。もちろんルックスに惹かれたところもあるにせよ、皇子は文字通り彼女を寵愛した。そして本気で愛していくのだ。

 クールな皇子とあっけらかんとしたヴィア。多く書かれているふたりの掛け合いは、読んでいるこちらも楽しく、思わず笑ってしまう。

 ただ、かんたんに明るくハッピーエンド…とはいかない。皇位継者争い、アレクの母である現皇后の嫉妬…ヴィアも最初はビジネスライクな契約としてその身を差し出したものの、徐々にアレクに心を奪われてしまう。彼女は寵妃の連れ子でしかなく、後ろ盾もないため正妃にはなれない。相思相愛でも、だからこそ、このままでは皇子の負担になり国を混乱させる可能性もあるのだ。

 なによりヴィアにはアレクに言えない秘密があった。彼がそれを知る時が来たら「姿を消すしかない」と、彼女はそう決意していた。やがて皇子は真実を聞く。そして寵妃が死んだ本当の父親にもらった大切なものと、本当の願い、弟やアレクへの愛情の深さを知ることになる。

 前半のヴィアのエネルギッシュな行動にはスカッとさせられる。そして後半、彼女を探し求めるアレクをはじめとしたアンシェーゼの男たちの姿はほほえましく、感動できる。一国を舞台にした壮大なラブストーリーの読後感は、あくまでさわやかだ。

文=古林恭