ビル・ゲイツが「読むべき本」で激賞した本が、休校が相次ぐ教育現場に前向きなエネルギーをくれる理由

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公開日:2020/4/21

『成功する「準備」が整う世界最高の教室』(ダイアン・タヴァナー:著、稲垣みどり:訳/飛鳥新社)

「学校」がなくなる…そんなことが起きるなんて数カ月前に誰が考えていただろう。未曾有のコロナ禍の影響で小学校から大学まで休校が相次いでいる。いち早くオンラインに対応した学校もあるが全体としてはまだまだ。だが、それぞれの現場には必死に子どもたちのために未来を模索する多くの教員、そして保護者がいる。とにかく頑張って欲しい。

 そんな方々に、今後の教育を考える上で大きなヒントになるかもしれない1冊を紹介したい。現在「アメリカ最高の高校」と大きな評価を受けているサミット・パブリック・スクールの校長による『成功する「準備」が整う世界最高の教室』(ダイアン・タヴァナー:著、稲垣みどり:訳/飛鳥新社)は、「理想の学校を作りたい!」という仲間と力を合わせ、ゼロから学校を作りあげた道のりと蓄積したノウハウをわかりやすく開示した1冊。ビル・ゲイツが2019年の「読むべき本リスト」に選んだだけでなく、アメリカの教育・ビジネス界のキーパーソンがこぞってオススメしているのは、本書にいかに大事な内容が書かれているかの裏付けになるだろう。

 サミットが注目される大きな理由は、その進歩的なメソッドの教育効果によって、卒業生全員が4年制大学に入学できるだけの実力をつけられる(全米の平均は40%)という驚異的な実績だ。だが、入学に特別な学力選抜があるわけではない。他の学校で伸び悩んでいたり、発達障害があったり、問題児だと思われていたりする、個性も志向もバラバラな子どもたちが通う、地域に開かれたパブリック・スクールなのだ。

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 本書にはサミットでの取り組みについてその成り立ちから説明しているが、中でも大きな特徴はいわゆるクラス担任制ではなく、メンター制をとっていることだろう。教師は教科担当のほか、ひとり15人~20人の生徒のメンターとして入学時から卒業時までをフォロー、学習指導だけでなく生活面など多面的にサポートしながら特別な信頼関係を築いていく。つまり「生徒に徹底的に寄り添う」ことを基本にすることで、落ちこぼれる存在をそもそも作らない体制になっているわけだ。

 さらにサミットの大きな教育目標は「生徒全員が成功への準備を整えること」。それは例えば「急激に変化する社会に対応するために必要なスキルとは?」「経済的に安定し、有意義な人生を送るための準備とは?」といった具体的な問いに置き換えられる。サミットではこうした問いに応えられるよう、科学的エビデンスを徹底的に集め、教育界やビジネス界のキーパーソンに教えを請い、調整しながら独自の教育メソッドを編み出してきた。本書にはそれらのノウハウが惜しげもなく提供されているわけだが、中にはいわゆる「課題解決型」の学習もある。実はこうした取り組みは、日本の学校でも「総合学習」などでトライしてきたものだが、教育制度そのものの問題や「入試偏重」の現実の前にはなかなか思うような成果に結びつかないジレンマがあった。ではなぜ、サミットでは成功するのだろう。その違いを意識しながら読むだけでも多くのヒントがありそうだ。

 なおサミットの運営には「保護者と教員の連携」も大きな柱となっているが、在宅学習がメインとなる現在において保護者のフォローは欠かせない。本書には保護者向けのアドバイスも豊富だが、そもそもサミットが同じ「人を育てること」を目的としていることを考えるなら、その方法論は家庭でも応用できることだろう。

「学校がない」という今までにないピンチの状態は、裏返せば新たな教育を考える「チャンス」なのかもしれない。与えられることばかりに慣れるのではなく、自ら考える。そんな前向きなエネルギーを与えてくれる1冊だ。

文=荒井理恵