フンころがしが「フンころがさず」に改名!? だけど… 自分らしく生きる勇気をくれる絵本

文芸・カルチャー

2020/5/22

『フンころがさず』(大塚健太:作、高畠純:絵/KADOKAWA)

 成長するにつれ、「自分と周りの違い」に気づいていく子ども。それぞれ持って生まれた個性は、言うまでもなく、どれも素敵です。けれど、もし周りのお友だちから「ヘンなやつ」と言われてしまったら、自信を持って「そんなことはない、自分は自分だ」と言えるでしょうか。そんな子どもの自己肯定感を育てる絵本が登場しました。『いちにちパンダ』などで知られる作者の大塚健太さんと、人気絵本作家・高畠純さんがタッグを組んだ新作です。

『フンころがさず』(KADOKAWA)に登場するのは、動物のフンを逆立ちでコロコロところがす昆虫、フンころがし。よく見かける昆虫ではないけれど、『ファーブル昆虫記』を読んでいる子は知っているかも。大きなくくりではカブトムシと同類ですが、“フンをころがす”のが大きな違い。なんだかおもしろくて、子どもが大好きになること間違いなしです。

 フンをころがすのが大好きな、フンころがし。いつものように、「フン フン フン♪」と鼻歌を歌いながらフンをころがしていたら、周りのみんなから「フンをころがすなんて、へんなやつだな」と言われてしまいました。怒ったフンころがしは、「だいたい『フンころがし』ってなまえがいけないんだ」と、フンをころがすのをやめてしまいます。そして、別の方法を考えてみるのですが…。

 ユニークなアイデアがたくさん登場します。「フンふんづけ」みたいにダジャレっぽいのとか、「フンもぐり」みたいにクサそうなのとか、子どもが大喜びするおもしろさ! でも、何かがおかしい!? フンころがしは、思い切って名前を変えてしまおうと考えます。フンをころがさないから、「フンころがさず」。

 おかげで自由になった気はするけれど、なんだかつまらない。そんな時、キツツキがフンころがしに言いました。「へんなやつだな。きをつつくから『きつつき』のぼくのように、フンをころがすからきみなんじゃないか」。

 フンをころがす生き物なんて、世界中を探しても他にはいない。「ぼくはやっぱりフンをころがすのがだいすきなんだ!」そう考えたフンころがしは、ふたたびフンをころがし始めます。「フンころがさず」を経て、自分を取り戻したフンころがしは、ひと回りたくましく成長したように見えます。きっともう、誰かの心ない言葉に悩まされることはないでしょう。

 そんなフンころがしの心を表すかのように、空はすっきりと晴れ渡った青空。草むらには花が咲き、遠くからキツツキが木をつつく音が聴こえます。何ひとつ変わらない、いつもの穏やかな日常。この世界の中に、フンころがしは確かに生かされていて、存在している。自分を変える必要なんてまったくないのだ、というメッセージが伝わってくるようです。

自分じゃない自分なんて、つまらない

 フンをころがすのが大好きなのに、フンを手放した時の「なぜだかまいにちつまらない」という本音は、大人の心にも響きます。自分らしくない毎日なんて、つまらない。周りからなんと言われようと、自分らしく生きることこそが自分に与えられた人生であり、自分らしさは一番手放してはいけないものなのだと。

「自己肯定感」なんて言われると難しく考えてしまいがちですが、もっとシンプルなことかもしれません。自分を認める方法を、明るくユーモラスに子どもたちに教えてくれるのが、本書の魅力です。フンころがしの心情が細やかに伝わってくる大胆な色づかい、愛嬌たっぷりだから虫ギライでもきっと大丈夫。

 我が子が自分らしさに葛藤する日は、いつかきっとやってくる。そんな時、悩みながらも前に進んでくれたらいい。この本を何度も読んで、中傷する人を「そっちのほうがヘンだ!」と跳ね返す強さを学んでほしいし、「へんなやつだな」と笑い飛ばしてくれるキツツキのありがたみを、心に染み込ませてほしいと思います。

文=麻布たぬ

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