雨野は、新人外科医になっても無力さに駆られていた……。『泣くな研修医』の続編小説『逃げるな新人外科医』

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/7

『逃げるな新人外科医―泣くな研修医2-』(中山祐次郎/幻冬舎)

 医師は国家試験に合格し免許を手にしても、一人前ではない。6~7年の間「研修医・後期研修医」として命の現場で腕を磨く。そこで今後のキャリアを積む場を選ぶのだ。

 ただ、そんな命の現場は非情である。僕も正看護師として、非情な困難に立ち向かう研修医や新人医師の姿を何度も目にしてきた。彼らの毎日は「挫折と後悔の繰り返し」といっても過言ではない。

『逃げるな新人外科医―泣くな研修医2―』(中山祐次郎/幻冬舎)は、そんな命の現場で1日の大半を過ごす研修医、新人医師の苦闘を如実に描いていると感じられた作品だ。

advertisement

 物語の舞台は、東京の下町にある牛之町病院。2年間の研修医生活を終えた主人公、雨野隆治は、上司の佐藤玲や岩井の指導のもと、消化器外科の新人医師として日々を過ごしている。

 彼が消化器外科を選んだ理由は、研修医時代に経験した患者との出来事が決め手だった。彼は当時感じた無力さを糧に、1人でも多くの患者を救う医者に近づくべく奮闘する。

 作中では、雨野の予想を超える医療の現実が降りかかる。もし研修医時代の雨野のままであれば、何もできず悔しさを噛みしめていただろう。しかし雨野も成長している。当時と同じ過ちを犯すのは嫌だったのだ。初めての後輩研修医、西桜寺凛子にも情けない姿は見せられない。1人の外科医としての意識が、雨野を強く、たくましくさせていた。

 ただそれでも、雨野は本書の終盤でこう思ってしまう。

「医者なんて……3年目になっても……結局何もできない……」

 研修医の頃から彼が抱いていた無力さを、3年目になったいま、再び思い起こさせたのはなぜなのか。一体、雨野にどんな出来事があったのか。それはぜひ本書を手にして知っていただきたい。

 ちなみに本書は『泣くな研修医』(中山祐次郎/幻冬舎)の続編だ。前作を読んだことがある人は、雨野が研修医時代からどのように変わったのかを感じながら読めるはずだ。

 一方、まだ前作を読んでいない人は、ぜひ前作から読んでいただきたい。彼がなぜ外科を目指したのか、そもそも人に感情移入しすぎる彼がなぜ医師を目指したのかがわかるからだ。

 本書は、それらの背景を知ったうえで読むとよりリアルさと面白みが増す。

 これは予想だが、おそらく本書の続編もいずれ書かれるだろう。いや、書いてもらいたいというのが本音である。一読者として、雨野の成長をもっと見ていたいのだ。

文=トヤカン