知的障害・発達障害のある子との適切な関わり方とは

出産・子育て

公開日:2020/5/29

『知的障害・発達障害のある子の育て方』(徳田克己、水野智美:監修/講談社)

『知的障害・発達障害のある子の育て方』(徳田克己、水野智美:監修/講談社)は、知的障害や発達障害の子どもと向き合う親に向けた本だ。本稿では本書の一部を抜粋してご紹介する。

原因の大半は「生まれつき」

 発達障害には大きく3つの種類がある。人との関わりが苦手で、強いこだわりなどがみられる「ASD:自閉症スペクトラム」、衝動性・多動性・不注意という3つの特性があらわれる「ADHD:注意欠如・多動症」、読み・書き・計算など学習に必要な能力の一部が大きく制約される「LD:学習障害」だ。発達障害とは、これらの特性(特有の傾向)によって困ったことが生じている状態をいう。

 また知的障害も、広い意味では発達の障害といえる。知的な発達に遅れがあり、そのために日常生活に支障をきたしている状態をいう。

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 特性の現れ方は子どもそれぞれで、ひとつの特性だけが目立つ子もいれば、複数の特性がみられる子もいる。ある特性が強烈に現れることもあれば、いくつかの特性がぼんやり現れることもある。特性がみられても、ただちに診断が確定するわけでもない。障害名はあくまで特性を知る目安。重要なのは、子どもの様子をしっかり見つめ、どのようなことに困っているのか、特性を知ったうえで接することだ。

 子どもが障害を抱える原因はさまざまだが、本書によると大半は「生まれつき」だそうだ。育て方を振り返って思い悩むのはやめよう。

気がかりを感じたときは「乳幼児健診」で相談

 本書では、子どもの発達について、気がかりなサインを見極めるための項目がいくつか掲載されている。たとえば「食事や着替えの最中にぼーっとして、なかなか終わらない」「赤ちゃんの頃から、だっこされるのが嫌い」「言葉での指示が伝わりにくい」などである。

 ただ、それが「障害」と診断されるものなのか、発達がゆっくりなだけなのか、すぐには判断できない。本書ではこのようにも述べられている。

知的障害や発達障害は、ある程度の年齢にならないとはっきり診断できないことが多いものです。
ほかに心配な症状がないかぎり、急いで医療機関に駆け込む必要はありません。

「うちの子はほかの子とちょっと違うかな」と感じたときは、1歳6ヵ月児健診と3歳児健診が行われる「乳幼児健診」で相談する。このとき発達障害の傾向や発達の遅れがあると判断されると、発達相談窓口や児童発達支援センターなどでの「個別相談」を勧められたり、「子育て支援センター」などの利用を勧められたりする。

 知的障害や発達障害は、個別相談を経て、医師により診断される。乳幼児健診で特に指摘を受けていなくても、気がかりなことがあるなら受診は可能だ。家族内で「相談なんか行かなくていい」という反対意見が挙がったときは、「自分が不安だから」と素直な気持ちを伝えて、不安を抱え込まずに先述の場所へ相談しよう。

家庭・保育・療育で連携しながら子どもと関わる

 就学前は、家庭・保育の場・療育機関の連携が、子どもの育ちを伸ばす鍵になる。

 療育は、子ども発達センター(児童発達支援センター)や児童発達支援事業所で受けられる。子どもの発達に詳しい保育士、心理士(心理師)、言語聴覚士、作業療法士、理学療法士などによる専門的な指導が行われており、施設によって方針が異なるが、生活習慣(着替え、食事、トイレ、持ちものの管理など)を学ぶクラスもある。

 療育は、保育園・幼稚園・こども園へ通いながらおこなう。療育機関は「実生活を上手に過ごすトレーニングの場」で、保育園などは、同年齢の子どもたちと過ごす社会的な場。どちらも大切で、子どもの成長には欠かせない。

「療育機関に通わせているから保育の場には行かなくていい」と考える親もいるそうだが、療育の大きな目的は、集団生活の中で困っていることの解決である。療育でのアドバイスを受けて、保育者に配慮をお願いし、家庭でも工夫する。このように療育・保育・家庭で連携しながら、子どもと向き合っていく。

 大切なのは「親の助けがあればできること」を「わかりやすく」「少しずつ」「何度でも」「適切に」支援して、「助けがなくてもできるようになる」ために時間をかけて丁寧に子どもと関わること。「できることを増やそう」と焦るよりも、子どもの成長の歩みに、親が合わせるくらいの心持ちが大切なようだ。

「わかりやすさ」を高める3原則

 発達障害・知的障害を抱える子どもは、総じて耳から聞きとった情報を理解することが苦手だそうだ。そのため普段から子どもに、伝わりやすい言葉をかけて接する。本書で紹介されているのは、「わかりやすさ」を高める3原則だ。

 まず名前を呼んで、何の話をするのか、聞き取りやすい口調ではっきり伝える。

例:「Aちゃん! 保育園に行きます!」

 そして伝えたいことは、ひとつずつ、短い文章で簡潔に。

例:「Aちゃんは、靴下を履きます」

 ここで大事なのは、抽象的な「ちゃんと」「きちんと」「しっかりと」などの言葉を使わないこと。今なにをすればよいのか、明確な言葉で伝えよう。

例:○「Aちゃんはズボンにシャツを入れます」×「ちゃんと服を着なさい!」

 これは叱るときや何かをやめてほしいときも同じだ。感情的に叱責しても子どもの発達は促せないし、改善にもつながらない。下手をすると自己肯定感の喪失で「うつ」や「ひきこもり」といった二次障害を引き起こす。

 絵に描いたカードを見せることで、より深く子どもに理解を促す方法もある。「ズボンをはいてください」と言葉で促すだけでなく、子どもが服を着る様子を描いたカードを一緒に見せることで、よりわかりやすく「今やってほしいこと」を伝えられる。

 たとえば病院が苦手で毎回パニックを起こす子どもも、前もってカードで分かりやすく伝えると、子どもなりに心づもりができる。

例:「Aちゃんは、幼稚園(カード)の後に、病院(カード)に行きます」
例:「そしてAちゃんは、病院(カード)から、自宅(カード)へ帰ります」

子どもの障害を簡単に受容できなくて当然

 最後に本書のこの項目もご紹介したい。もし子どもの障害を受け入れられなくて悩んでいる方がいたら、まずは受け入れられない自分を受け入れてほしい。

 どんな親でも子どもの障害を簡単には受容できない。しかし、時間が経つにつれ、いくつかの心の変容を経て、きっと少しずつ子どもを愛せるようになっていく。ここでこの言葉を抜粋しよう。

子どもの障害を受容するまでの葛藤は、親として成長していく過程でもあります。保護者が葛藤している間にも、子どもは育っていきます。子どもといっしょに成長していきましょう。

文=いのうえゆきひろ