帰国子女でなく留学経験もない地方の普通の女子高生が、海外のトップ大学に合格できたワケ

暮らし

公開日:2020/6/9

『あたらしい高校生 海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』(山本つぼみ/IBCパブリッシング)

 教育界では長年の議論だった9月入学が、コロナ禍で広く注目されることとなった。人口減と内需減が避けられない見通しである日本では、海外で活躍できるグローバル人材の輩出に向けて、教育改革が進められてきた。海外大学では、言わずもがなグローバルの素養が磨かれる。9月入学のメリットのひとつは、海外大学の入学と時期が合うことだ。

 グローバル人材になることは、これからの子どもたちにとって、幸せになるための有効な手段だといえる。9月入学議論の沸騰で、わが子の選択肢として興味をもった家庭があるはずだ。

『あたらしい高校生 海外のトップ大学に合格した、日本の普通の女子高生の話』(山本つぼみ/IBCパブリッシング)を開いてみよう。本書は、「地方公立高校」「留学経験ゼロ」「苦手科目は英語」、いわば“普通”の女子高校生自身が、塾通いをせず、独学と学校の先生のサポートによって米最難関「ミネルバ大学」を含めた日米豪のトップ大学に合格するまでの軌跡と大学での生活について、等身大の言葉で描いている。海外大学に合格するためのヒントが見えてくるはずだ。

advertisement

 アメリカの入試システムは「総合人物評価」であり、日本のシステムと大きく異なる。つまり、一発試験で決まるのではない。高校3年間の成績や課外活動、エッセイ、推薦状など、さまざまな要素が総合的に評価され、最終的に合否が決まる。

 とはいえ、当然ながら難関大学、しかも海外のトップ大学に合格することは、たやすくない。本書によれば、一般的に、海外の大学に出願するときは、合格する可能性が低い「ドリーム校」、五分五分の「実力校」、滑り止めの「安全校」の3つのカテゴリーから、それぞれ2~3校ずつ出願するもの。親も情報収集を手伝って、出願校を相談すると良さそうだ。

 著者は最終的に、出願したアメリカの大学17校のうち、世界最難関大学と呼ばれるミネルバ大学を含む6校に合格した。しかし、一時期は、自信のなさからランクの低い大学を検討したという。そのとき、叱咤激励したのが、周囲の大人だ。著者は、恩師に絞り込んだ出願校リストを見せたとき、こう言われたそうだ。

「こんなレベルの大学に行かせるために、僕は君を指導してきたわけじゃない」

 信頼する恩師に初めて本気で怒られ、著者は「本当に行きたい大学」にこだわり、出願校リストを作り直した。行きたい大学ではなく妥協した大学では、勉学のモチベーションが低下しやすい。大学を休みがちになり、部屋に閉じこもる。友達がいない海外なら、それは生活の孤立に直結する。大人は、海外大学を目指す子どもほど、本人が行きたい大学を目指すよう、サポートするべきだ。

 さて、著者は6月に合格通知を受け取り、ビザ手続きや予防接種などを済ませた後、7月に渡米する。大学は8月末からスタートするが、それまでに海外の生活に慣れようと早めに飛ぶ学生が少なくない。著者は1カ月半、語学スクールに通った。そういう意味では、9月入学はメリットも多いが、準備期間を奪うことにもなる。

 大学入学後、さまざまなカルチャーショックが著者に降りかかる。例えば、オリエンテーションでの自己紹介時、学生それぞれが自分のジェンダー・アイデンティティを示すのが習慣となっている。中性的なジェンダー・アイデンティティをもっている学生はそれほど珍しくなく、日本との大きな価値観の違いを身をもって知る。学生間の経済的な差も大きい。

「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という言葉がある。ダイバーシティは「多様なバックグラウンドや価値観をもつ人たちが存在している状態」、インクルージョンは「そのような多様性を尊重し合い、差別や排斥をせずにすべての人を仲間として受け入れること」を意味する。日本では、時に両者が混同して使われることがあるが、著者は海外での生活を通して、両者の違いを知る。ダイバーシティがあっても、インクルージョンの精神が欠けていれば、差別や排斥が起こるのだ。海外大学で学ぶ、グローバル人材になる、ということは、このように日本では得にくい視野や価値観を身に付けることになる。

 著者いわく、アメリカの大学入試は、全体のダイバーシティを重視して合格者を選ぶ。つまり、マイノリティで他人と違う経験をもち、異なった考え方ができることが強みとなる。実際、著者は志望大学に入学後、面接をしてくれた入学審査官から「あなたは他の人と違う視点をもっている」と教えられた。地方公立高校出身、留学経験ゼロ、苦手科目は英語でも独自で勉強した、というバックグラウンドが、志望大学内では唯一無二であったことが合格要因だと、著者は推測している。優秀であれば合格できるのではない。もしかしたら、わが子にも合格の可能性があるのだ。

 本書は、随所で同じように海外大学を目指す人に向けて、エールを送っている。本記事ですこしワクワクした人は、本書を手にとってみてほしい。

文=ルートつつみ(@root223