メルカリ、クラシル、ビズリーチ… 今や誰もが知るサービスの躍進の舞台裏

ビジネス

公開日:2020/6/22

『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(堀新一郎、琴坂将広、井上大智/NewsPicksパブリッシング)

 ネット業界は、日々新しいサービスがどんどん登場し、あっという間に私たちの生活に馴染んでいく。だが、世間に浸透するサービスを生み出すことのなんと大変なことか。私たちがサービスを知るタイミングは、たいていテレビCMや、周りの人が使っているのを見たとき。その前の段階で、何百、いや何千ものサービスが試行錯誤を繰り返している。

 本書『STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』(堀新一郎、琴坂将広、井上大智/NewsPicksパブリッシング)は、ベンチャー投資を行う著者が見てきた17の起業家の事例集だ。ラインナップは、クラシル、メルカリ、ビズリーチなどの国民的なサービスばかり。だが、彼らも簡単に今の地位を築いたわけではない。

はじめは「レシピ動画」ではなかったクラシル

 まずは、レシピ動画サービスを提供するクラシルだ。ステイホームで料理する機会が増え、使い始めたという人も多いのではないだろうか。今でこそレシピ動画のイメージだが、実はサービス開始当初はコンセプトが違った。

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 初期のコンセプトは、「暮らし知る」。クラシルは、料理だけでなく生活全般の情報を発信するキュレーションメディアだった。しかし、創業者の堀江裕介氏には、同じようなサービスが増えれば利益が出なくなることがわかっていた。本書によれば、彼はその後、内容が古びない「食」コンテンツに絞り、大きな市場を狙うために「動画」というトレンドに乗ることを決意。鮮やかな方針転換によって成長の速度を上げたのだという。

“若い女性”を徹底的に攻めたメルカリ

 今や誰もが知っているフリマアプリ・メルカリ。現在のCMは「もっとみんなの、フリマアプリへ。」と銘打ち、幅広い層を狙っているが、初期の戦略は全く違った。実はフリマアプリとしては後発だったメルカリは、テレビCMを効果的に活用して競合と差をつけた。

 メルカリは、競合のフリルなどを分析し、フリマアプリの初期ユーザーはファッションなどを好む若い女性であることをつかんでいた。そこで、テレビCMを打つ際にも、思い切り20~30代の女性にターゲットを絞る。キャスティングが『テラスハウス』の出演者だったというから、その徹底ぶりがうかがえるだろう。メルカリ普及の一因は、サービスの普及段階に合わせたマーケティングにもある。

 本書では他にも、特徴的なCMが印象に残るビズリーチやラクスル、「NewsPicks」で知られるユーザベースなどを紹介。経営者への濃密なインタビューに裏打ちされた詳細な事例に、「アイディアを見つける」「プロダクトを作る」といった起業の各フェーズで横ぐしを刺す理論書にもなっている。ネット業界の最新事例と理論の両面が充実し、かつそれらが有機的につながっている書籍は珍しい。起業だけでなく、サービス作りや組織作りに大きな気づきを与えてくれる名著である。

文=中川凌
@ryo_nakagawa_7