夜の公園で殺し合う少年少女たち――生きづらさの理由を求める先には…「電撃小説大賞」の隠し玉が満を持して登場!

文芸・カルチャー

更新日:2020/7/20

『僕たちにデスゲームが必要な理由』(持田冥介/メディアワークス文庫/KADOKAWA)

 小さな田舎町の男子高校生・水森陽向は、自分を取り巻く状況に生きづらさを感じている。ある晩、何かに呼ばれるように夜の公園へ足を運ぶと、衝撃的な光景を目にしてしまう。そこでは10代の少年少女たちが、殺し合いを繰り広げていた――。

 日本最大級の新人小説賞である電撃小説大賞。4607本もの応募作品が集まった2019年度の第26回で、惜しくも受賞は逃したものの「隠し玉」デビューとなった話題作『僕たちにデスゲームが必要な理由』(持田冥介/メディアワークス文庫/KADOKAWA)がこのほど出版された。挑戦的な設定と切実なストーリーが多くの審査にあたった多くの編集部員の胸を打ち、『15歳のテロリスト』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)の松村涼哉さんと『君は月夜に光り輝く』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)の佐野徹夜さんも、本作の帯に絶賛のコメントを寄せている。

 現実世界になじめない子どもたちが、夜な夜な集う公園。そこで行われる殺し合いに陽向は驚愕し、同時に惹きつけられる。そして、無敗の記録を誇る最強の人物、阿久津冴絵から闘いを申し込まれる。

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 この物語の副主人公である彼女もまた、陽向と同じように苦しみを抱えている。

 町の名家の一人娘として生まれ、成績優秀、女子剣道部のエースとして全国大会にも出場するという、申し分のない人生を歩んでいる阿久津。しかし、勝ち続けることを強いる父親との関係に、心は疲れきっていた。

 そんな彼女と剣を交え、誰の目にも陽向が負けると思われたものの、なんと彼が勝利する。そこから殺し合いは本格的に始動する。

 殺し合いには、いくつかの法則のようなものがある。

“死んでも蘇生する”“痛みを感じない”他、参加者は自らの特技や個性を活かした武器を生み出し、闘うのだ。

 元剣道部の阿久津は日本刀を振るい、陽向は昔好きだったルービックキューブを自らのアイテムとして使う。他にもさまざまな子どもたちが殺し合いを繰り広げる。

 大好きなアニメの主人公と同じ闘い方をする小学生男子、滝本蒼衣。相手の闘い方をそっくりそのまま真似る県瞬。絵筆で宙に雷を描く、志木幽。自分には個性がないので闘い方が分からないという少女、佐藤ハイネ。軽みのある性格で空を飛ぶイケメン、愛田景。

 彼らもまた、それぞれに追い詰められた事情を抱えている。

 殺し合いを通して、次第に陽向は自分自身を知っていく。なぜ自分は殺し合いに足を踏み入れたのか。武器であり防御の道具がルービックキューブなのか。自分の感じるこの生きづらさは、いったい何が原因なのか。

 考えていくうちに自分の心の深い部分へ降りていき、これまで敢えて直視しないようにしていた問題――両親との関係――に立ち向かおうと決意する。そして、自分と同種の苦しみにいまや押しつぶされそうになっている阿久津に、再戦を申し込む。彼女を救うために、彼女を解放するために。「本当に言いたいことを探すために、殺し合おう」と。

 終盤にて展開される2人の2度目の殺し合いは、壮絶だ。互いの武器と感情が限界までぶつかり合って、最高密度の緊迫感が生まれている。月光に照らされて少年少女は殺し合う。まるでそうすることで分かり合い、生きる理由を見つけようとするかのように。

文=皆川ちか

『僕たちにデスゲームが必要な理由』作品ページ

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