14歳、それぞれの悩みを抱える少女たちが、バスケにぶつける熱い青春!『跳べ、暁!』

文芸・カルチャー

公開日:2020/7/19

『跳べ、暁!』(藤岡陽子/ポプラ社)

 学生時代、夢中になったものがあるだろうか? 周囲に聞くと、予想以上にバラエティーに富んだ回答に驚く。社交ダンス、短歌、旅行にバンド。サッカーなどのスポーツに打ち込んだという話も多く聞く。『跳べ、暁!』(藤岡陽子/ポプラ社)の主人公・春野暁も、そんなふうに打ち込めるものがある少女だ。

 中学2年生の暁は、とある田舎町へ引っ越してきた。病気がちだった母が亡くなり、気落ちした父が会社を辞め、父の故郷に移り住むことになったのだ。

 暁は、7歳のときにクラブチームに入って以来、中学でもバスケ部に所属し、「暁からバスケットをとったらなにも残らない」と言われるくらいに熱中してきた。けれど、転校先の中学校に女子バスケ部はない。そもそも転校は、暁が望んだことではなかった。友達と別れることも、母との思い出が残るマンションを離れることも、嫌だと口にできなかっただけだ。自分が我慢すればいい、そう考えて父についてきたけれど、バスケができないことは耐えられない……。

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 そんな思いを、クラスの中でただひとり転校初日に話しかけてくれた秀才・吉田欣子に打ち明けると、彼女は意外にも熱いことを口にした。「女子バスケットボール部、立ち上げましょうよ」。かくして暁と欣子は、女子バスケ部の創部に向けて動き出す。

 初期メンバーは暁と、頭はいいが運動神経ゼロの欣子。しかしバスケは、2人ではできない。暁は、自宅の近所で出会った少女に目をつける。学校にはほとんど来ないが、高身長で伸びやかな手足を持つタンザニア人のブミリア・リモだ。暁と欣子は、リモが不登校になった原因を解きほぐし、彼女を女子バスケ部に誘うことに成功する。

 こうして3人になった女子バスケ部だが、いかんせん暁以外の2人は初心者。使える練習場所もグラウンドの隅だけだ。しかし暁たちの情熱は、クラスメイトや教員を次々と巻き込んでいく。そうして、ついに公式戦への出場が決まったある日、部活帰りの暁たちは、見過ごせない場面に出くわしてしまった。鮮やかな走りで暁の目を釘づけにした陸上部の本田薫が、コーチに「指導」と称して暴言を吐かれ、土下座をさせられていたのだ。

 その場から薫を救い出した暁たちに、薫はこのことを公にしないでほしいと言う。薫には事情があり、陸上強豪校の学費免除などにつながるコーチの推薦をもらわなくては困るというのだ。期待と重責に潰されかけている薫を、なんとかしてやりたいと思う暁たちだが……。

 スポーツものの作品は、わたしたち読者に、ちょっと特別な体験をさせてくれる。やはり登場人物たちと同じボール、同じゴール、同じ勝利を目指せる感覚には、ほかのジャンルに代え難いなにかがある。その「なにか」──うまく言葉で言い表せない、圧倒的な興奮こそを、わたしたちは「青春」と呼ぶのかもしれない。

 夢中になれるものを追い求め、そんな仲間に惹き込まれ、おのおの事情を抱えながらもまっすぐにぶつかり合い、涙して笑い合う。例年よりも人との接触が減ってしまいそうな今年だからこそ、そんな青春を“体験”できる小説で、熱い夏を過ごしてほしい。

文=三田ゆき