ママ共感!パパ必読! 元ホストで小説家がワンオペで家事・育児をしてみたら?

出産・子育て

更新日:2020/7/19

『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』(海猫沢めろん/講談社)

 2011年、小説家の海猫沢めろんと、シェアハウスで同居していた女性の間に子供が生まれた。本書『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』(講談社)は著者の海猫沢めろんが育児や家事に奮闘する様をユーモラスに描いたエッセイだ。

 当時、著者の配偶者は東京藝大卒で医学部合格を目指して9浪中。著者はワンオペで子育てをこなすのだが、これが気が狂いそうなほど辛かったらしく、「このままだと子供か自分が死ぬ」と思いつめる。著者は、この辛さを「徴夫制」として全男性に課すべきだと言う。男性には産後の女性たちの苦労がピンとこないのだろう。

 そういえば、アーティストのスプツニ子!は男性が生理の辛さを疑似体験できる「生理マシーン、タカシの場合」という作品を創ったことがあった。腰の部分にまわして装着すると、腹部側には鈍い痛みを伝える電極がついている。タンクから5日間かけて80mlの血液を流すという。

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 確かに、お腹を痛めて子供を産んだ母は、親しての当事者意識がより強いのだろう。父親が家事や育児をしても、「お手伝い感覚」でやっているケースが多い、という印象を受ける。「男は家=休むところ、だと思ってます。仕事がオンで、家がオフ。スイッチを切り替えるように意識が勝手に切り替わっています、悪気はないのです」という著者の言葉は、実体験をベースにしているからこそ、具体的で説得力がある。

 具体的といえば、著者は子供にどんな習い事をさせる(あるいはさせない)べきか、どんな本を読ませるか、などの現実にぶちあたる。特に著者の頭を悩ませるのは、YouTubeをどこまで見せるか、という問題。子供の将来なりたい職業のランキングにユーチューバーが挙がる時代だが、毎日アダルトものも含め無制限に見せるにはいかない。

 だが、YouTubeが情報の宝庫なのは確か。著者はある程度の制約はあれば、基本的に肯定派。評者もそうである。要するに昔公園でスポーツをしたりテレビの人気番組を見たりしていたのが、YouTubeやソーシャルゲームに代わっただけだ。「昨日、あのテレビ番組見た?」というのが「ヒカキンのあの動画見た?」「ゲームの続きやろう」に代わっただけではないか。

 ちなみに昨今、『ドラえもん』に出てくるような、空き地や公園や裏山などの余剰な土地が、次々に消えつつある。YouTubeやソーシャルゲームはそんな現代にあってサード・プレイス(学校/職場と家以外の空間)として機能しているのだ。

 また、PTAとどう付き合うか、実家に帰る際注意すべきことなど、ケーススタディが多く記されているのもいい。洗濯乾燥機と食洗器は買うとして、絶対必要なのが電動アシスト自転車、というアドバイスも挿入される。ワンオペ地獄を味わった著者ならではの体験談がいちいち面白いし、役に立つ。

 なお、著者には、歌舞伎町のトップ・ホスト(ちなみに著者も元ホスト)が赤ん坊の養育費を、クラウド・ファンディングで集めるという小説『キッズファイヤー・ドットコム』(講談社)という名著もある。また、母親目線で育児の辛さを描いた著作には金原ひとみ『マザーズ』を挙げたい。

文=土佐有明