「週刊こどもニュース」が人生の転機に? 池上彰さんが学び続ける理由

ビジネス

更新日:2020/7/31

なんのために学ぶのか
『なんのために学ぶのか』(池上彰/SBクリエイティブ)

 社会人になってからも、学びは続いていく。子供のころ、テレビで「人生、一生勉強です」と言っている偉い人を見て、「うっそだぁ」と思っていた。だが、いざ社会人になると、どうやらそれが本当だったと気がつく。自分の業務や業界の基礎知識はもちろん、関連する法律や、根本にある技術について。毎日勉強が続いている。一見関係ない分野の知識が、ふとしたときに仕事のヒントになることもある。

 本書『なんのために学ぶのか』(池上彰/SBクリエイティブ)は、元NHKの記者で、現在ジャーナリストとして活躍する池上彰氏による“学び”についての本だ。池上さんといえば、「週刊こどもニュース」でのわかりやすい解説や、選挙番組で見せる政治家への鋭い質問が印象的だ。こうした仕事ぶりの背景には、やはり膨大な勉強がある。

人生の転機は「週刊こどもニュース」

 本書の中で、池上さんは自分の職業人生の転機が「週刊こどもニュース」だったと振り返る。当時、キャスターから記者へ戻りたいと志願していた池上さんにとって、「週刊こどもニュース」のお父さん役への抜擢は思いもよらぬものだったという。キャスター時代から「わかりやすさ」を徹底していた池上さんは、専門用語が多いニュースをわかりやすく子供に伝えられるよう奮闘した。

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 当然、知識のない子供に伝えるためには、自分自身がより深くニュースを理解する必要がある。池上さんは、わかったつもりになっていたテーマや、新しく出てきた社会問題は、その都度基礎から勉強しなおした。番組内の「世の中まとめて一週間」は、放送前日に原稿を子供の前で読み上げ、理解できないところがあればブラッシュアップしていたというから驚きだ。池上さんは、このとき磨き上げた「わかりやすさ」が武器となり、今ジャーナリストとして唯一無二のポジションにいる。

学びが「仮説」をつくる

 ビジネスの世界には、答えがない。私たち社会人は、どんな意識で学びと向き合えばいいのか。筆者が本書の中ではっとさせられた考え方を紹介する。それは、池上さんがノーベル化学賞を受賞した鈴木章先生に話を聞いた際のもの。研究は、ビジネスと同様、明確なゴールがない。どうやって研究をしているのかを問うた。

 鈴木先生は、常に勉強して新しい知識を吸収し、知的なバックグラウンドを作ることが大事だと話したという。検索すれば何でも出てくる世の中だが、理解して自分の中で血肉となっていなければ、ものを考えるときの足しにはならない。鈴木先生は、自分の身になっている知識から「これこれの理由からAとBを足したらCになるはずだ」と仮説を立て、実験でそれを試してみる。その繰り返しがノーベル賞につながったという。

 仕事でも同じことが言えるだろう。新しいことに挑戦するとき、成功するかは誰にもわからない。だが、勉強していることで、「こうしたらうまくいくかも」という仮説の精度は上がる。

 本書は、大学生向けの講演をまとめたものだが、社会人の学びのヒントが多くちりばめられている。後半では、「読書好き」だという池上さんによる読書案内もあるから、次なる知の扉への準備もばっちりだ。社会人は、学生時代のように、根を詰めて勉強し、学校のテストの点に一喜一憂することはない。それでも、日々の学びが次の仕事につながる。いま一度、「勉強」との距離感を見つめなおしてみてはいかがだろう。

文=中川凌(@ryo_nakagawa_7