伏線と言葉の仕掛けで、最後の最後で物語が反転する! 驚愕&感涙のギミック・ラブストーリー

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/3

もう一度人生をやり直したとしても、また君を好きになる。
『もう一度人生をやり直したとしても、また君を好きになる。』(蒼山皆水/KADOKAWA)

 中学生の頃から好きだった初恋相手と結婚して三年。“俺”は幸せな毎日を送っていた。しかしその幸福は、ある日突然、奪われる。時を巻き戻すことができる特殊な力を使って、事態を解決するため過去へと向かう“俺”。その代償として、自分自身の命を差し出すことになろうとも……。

〈書ける、読める、伝えられる〉の全方位型コミュニケーションで人気の投稿サイト「カクヨム」と、恋愛小説投稿サイトの大御所「魔法のiらんど」。この2つが初めてタッグを組んで開催した“カクヨム×魔法のiらんどコンテスト”で特別賞を受賞した驚愕の感涙ラブストーリー、『もう一度人生をやり直したとしても、また君を好きになる。』(蒼山皆水/KADOKAWA)が、ただいま好評発売中だ。

 初恋の人と結ばれる。古今東西あらゆる恋愛物語において、これほど幸福なことはない。そんな奇跡のような僥倖を叶えた主人公である“俺”は、しかし幸福の絶頂から絶望の淵へ叩き落とされる。

 最愛の妻・美緑が、脳の血管にできた血栓が原因で、急死してしまったのだ。さよならを言うことすらできず、死によって愛する人と引き裂かれるという地獄。美緑の死因が、中学時代に頭を打った事故にあることを知った主人公は、ある決断をする。

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 過去へ遡って彼女を助けよう、と。

 少年時代に黒猫の姿をした神から授けられた不思議な力――時間を巻き戻すことのできる能力――で、十一年前の中学時代にタイムリープしようと考えるのだ。だがこの力には、おそろしい副作用があった。逆行した時間の五倍にあたる寿命が、縮められてしまうというものだ。

 つまり、十一年間遡ると、主人公の寿命は五十五年も減ってしまう。現在の年齢は二十六歳。これはほぼ命を捨てる選択と言っていい。

 自分の人生の大半を擲ってまで、愛する人を取り戻すことに意味はあるのか?

 この究極の命題に、主人公は命を懸けてイエスと答える。そして15歳の頃に戻って、再び人生をやり直す。

 本作は全6章の構成となっている。

 第1章は主人公の一人称で、充ち足りた日々からの暗転と、美緑の命を救うため過去へ戻る決意をするまでが描かれる。

 一転して第2章から第5章までは、美緑の視点に寄り添った三人称で展開していく。中学3年生の秋、長らく距離を置いていた幼なじみの優弥から体調を気遣われ、体育の授業を休んだことをきっかけに彼との距離が再び近づく。

 高校の合格祈願を兼ねた、初めての初詣デート。同じ高校への進学。それぞれの友人である彩楓と大地も交えてグループ交際のような関係へと発展し、ひと足早く彼らが付き合いだしたのを追いかけるかのごとく、美緑と優弥も恋人同士に。

 大学生となり、社会人となり、プロポーズを経て彼らは結ばれる。そんな幸福の頂点で悲劇の瞬間はやってくる。タイムリープの代償を支払うときが、とうとう“俺”に訪れるのだ。

 そのとき美緑は何が起きたのか分からず、茫然として立ち尽くす。だがそれは彼女だけではない。私たち読者も同じように混乱する。そして続く第6章で、物語に張り巡らされた周到な伏線と言葉の仕掛けに、ようやく気がつく。あの小道具、あの場面が意味していたのは本当は何だったのか……ということに。

 美緑のまなざしで見ていたときには気づかなかった、たくさんのできごと。それが、再び“俺”の一人称で語られる最終章で、世界がくるりと反転し、最後の最後でまったく新しい愛の物語として立ちのぼってくる。

 たとえ、人生を何度やり直したとしても――俺は君のことを好きになる。

 主人公は愛する人に、心の中でそう呼びかける。たとえその想いが届かないとしても、この感情は絶対だ。

 人気イラストレーター・ふすいさんによる装画がまた、本作品の世界観を鮮やかに表している。海辺に打ち上げられて、涙のような雨粒を浴びる青年。背中合わせに女性が映っているけれど、彼らは反対側を向き合ってて、たぶん互いに気づかない。降り注ぐ日射しがやさしく明るいだけに、切なさに胸が締めつけられる。

文=皆川ちか