学校では教えてくれない「アート思考」をビジネスで活かす方法

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/20

13歳からのアート思考「自分だけの答え」が見つかる
『13歳からのアート思考「自分だけの答え」が見つかる』(末次幸歩/ダイヤモンド社)

 山口周の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社)がベストセラーになるなど、昨今、ビジネス書の世界で、ロジカル思考、デザイン思考に続き、「アート思考」への関心が高まっている。こうした流れを継ぎつつ、思考のレッスンを織り交ぜたのが、美術教師でアーティストの末次幸歩の『13歳からのアート思考「自分だけの答え」が見つかる』(ダイヤモンド社)である。

 なぜ「13歳」からなのか? 統計によると、小学校から中学校へ進む時期に最も人気がなくなる教科が美術であり、この時期に苦手意識が一気に高まるのだという。主な理由は、美術に「正解」が求められるからだ。

 過去の偉大(とされている)芸術作品にまつわる「知識」を身につけ、テストではそれがスコア化される。だが、これは著者の言う「アート思考」の対極にあるものだ。

advertisement

 アート思考とは、「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすというもの。例えば、クロード・モネの「睡蓮」を目にしたある子供は、「かえるがいる」と言う。絵にはかえるなどまったく見あたらないのだが、その子供は「かえるが湖の中にもぐっている」というのだ。こういう自由な発想は、知識の暗記が推奨されるなか、徐々に失われていくのだろう。

 著者はパブロ・ピカソやアンディー・ウォーホルの作品を例にとり、鑑賞者(=読者)の感想を文章にしてアウトプットさせ、どこからそう思い、そこからどう思ったのか?を引き出してゆく。便器にサインをしただけのマルセル・デュシャンの「泉」に困惑しながらも、読者は、やがて「自分なりの答え」へと辿りつく。著者が作品の解説をするのはあくまでも最後。それも、「こういう見方もある」という程度にとどめられている。主体はあくまでも読者なのである。

 また著者は、アート思考の必要性について、「美術」とは正反対の教科だという「数学」を持ち出し、両者を比較する。数学には「太陽」が存在することや「1+1=2」が正しいことは判然としており、それらを疑う余地はない。つまり、数学はこうした「正解(=太陽)」を見つける能力を養う教科である。

 一方、美術が扱うのは「雲」だと著者は言う。いつもそこにある太陽とは違い、空に浮かぶ雲は常に形を変え、一定の場所にとどまらない。そしてそれこそが、アート思考の核でもある。アート思考が探究の末に導き出す「自分なりの答え」は、そもそも形が決まっていない。見る人や時が違っていれば、どうとでも変化する。

 政情や気候の変動、ウイルスの流行と対策が目まぐるしくなってきた現代の世界において、その都度その都度「新たな正解」を見つけていくのは非常に難しい。無意味に思えることもあるだろう。

 そこでアート思考の出番である。この後の人生で訪れる難題には「自分なりの『雲』をつくる力」が問われる。今こそ、見落としていた「美術」の意味や意義を改めて取り戻すべきだ。もちろん、「アート思考」はビジネスへの応用も利く。自由で柔軟な発想力や企画力にもこの思考を活かすべき時ではないだろうか。

文=土佐有明