誰もが羨むアットホームな我が家に隠された禁断の姉弟愛。歪んだ愛情が引き寄せる衝撃の真実は?

文芸・カルチャー

公開日:2020/8/23

『アットホーム』(齋木カズアキ/文芸社)

 筆者は日頃から、官能的な描写がなされていたり、グロい展開が待ち受けていたりする小説を読みなれていると自負している。けれど、『アットホーム』(齋木カズアキ/文芸社)は、そんな自分でも新たな衝撃を受ける1冊だった。じわじわと心に染みこんでくるような艶めかしい毒。その威力に驚かされた。

ボクの家はアットホーム。でも自慢の家族の本性は…

 芳賀達哉は、自分の家族が自慢の種。厳しくも優しい勤勉な父親や、美人で家庭をしっかり守る社交的な母親を誇りに思っており、両親の言うことをよく聞くお淑やかな姉・めぐみのことが大好き。周囲から「アットホーム・ファミリー」といわれ、羨望の眼差しを向けられることに心地よさを感じていた。
 
 特に、いつも自分のことを気にかけ、最優先してくれるめぐみへの想いは強く、叶うはずなどないのに、一生そばにいたいと願っていた。達哉は実の姉に、淡い恋心を抱いていたのだ。
 
 しかし、その恋慕は信じられない光景を目にしたことで、歪んだものへと変化してしまう。ある日達哉は、父親がめぐみを犯しているところを見てしまった。ボクの家族は世間一般から、ズレている――そう気づいたら、達哉の自制心はなくなり、世間一般に属さないボクたちはそれに縛られる必要がないのだという身勝手な理由をこじつけ、思いを寄せていた姉との肉体関係に溺れていく…。

 狂った父と弟…そんな印象を受ける読者はきっと多いだろう。だが、なぜかめぐみは達哉をまったく責めず、関係を断ち切ろうともしない。これは一体なぜなのだろう? そう不思議に思いながら2人の行く末を追っていくと、そこには「アットホーム」という戯言で覆い隠してきた残酷すぎる秘密が現れる…。すべてを知った達哉は憎悪を募らせ、自分とめぐみに理不尽な宿命を背負わせた両親に復讐しようと決意する。

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 一方そんな時に、達哉とめぐみに関わっていた周囲の大人2人が相次いで死亡する。言いようのない不気味さにハラハラしつつも読み進めると、その先にはさらに衝撃的な展開が待ち受けており…。

 本作は一見官能小説のように思えるかもしれないが、思いがけないところでウルっとさせられたり、背筋がゾッとしたりと一言では語り尽くせない魅力が詰め込まれている。

 また、芳賀家の人間模様に触れ、自分の家族について思いを馳せたくなってしまう人もいるかもしれない。達哉とめぐみの身に起こった悲劇は、稀なものかもしれないが、自分の家を「アットホーム」だと信じたくなる気持ちは、きっと誰の中にもあるだろう。幼児虐待や家庭内暴力、家族間の殺人など、目を覆いたくなるようなニュースをどれだけ目にしても、私たちは「私の家では、そんなことは起きない」という理想を抱いているように思う。

 けれど、そんな“どこか遠くの出来事”が意外と自分の身近に迫っていることだってあるはず。私たちは「仲のいい家族」という綺麗な言葉で、自分たちの本性を隠し、納得させてはいないだろうか。そう振り返るきっかけとしても、ぜひ本作のページを開いてみてほしい。

文=古川諭香