初対面で「お世話になっております」はOK? 相手をほめて心を通わせるコミュニケーションの極意

ビジネス

公開日:2020/8/26

ほめ本 こころ通わすコミュニケーション

著:
出版社:
ぱる出版
発売日:
『ほめ本 こころ通わすコミュニケーション』(前田安正/ぱる出版)

 コミュニケーションの正解はひとつではない。しかし、正解がないからこそ難しく、たった一言の違いが、その後の大きなトラブルに発展するときもある。
 
 仕事がうまく進む秘けつは、立場に関わらず相手を「ほめる」ことだというのは、書籍『ほめ本 こころ通わすコミュニケーション』(前田安正/ぱる出版)。物語を通してコミュニケーションにおける失敗例や改善例を学べば、他人とのやり取りでヘタを打つことはなくなるはずだ。
 
 さて、ストーリー仕立てとなっている本書の主人公、徳山桃李(以下、トーリ)は出版社の単行本編集部に勤める新入社員。入社から8カ月後、試行錯誤の末にようやく自分の企画書を通せた喜びにひたっていたトーリであったが、彼はある1通の依頼メールで初めてやり取りした大物著者・蟻巣川大悟の反感を買ってしまう。
 
 物語では、先輩社員の浅島すずがポイントごとの改善案を提示するが、細かな文面を流れに沿って紹介していこう。

(1)メールの書き出しが定型句になっていないか?

【トーリの原文】
平素大変お世話になっております。
初めてご連絡差し上げる、マジ文出版編集部の徳山と申します。

 よく見かける文面ではあるが、すずがトーリに指摘したのは大きく2点。ひとつは、書き出しの定型句である。そもそも初めてやり取りする相手に「お世話になっております」は矛盾しているし、やみくもに書くのは「思考を停止した感じに受け取られなくもない」とすずは厳しい意見を投げかける。

 また、もうひとつのポイントは「徳山」と名字のみを綴っているところ。初対面では「しっかり自分を名乗ることで、相手に安心感を与えることができる」と本書で理由を説明するすずが書いた改善例は以下のとおりである。

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【すずの改善例】
マジ文出版の徳山桃李と申します。突然メールを差し上げることをお許しください。

(2)肝心の要件を気持ちよく相手に伝える工夫

 メールの文頭から手厳しく指摘されたトーリ。しかし、彼がやらかしてしまったのはそれだけではなかった。続いては、トーリが書いた肝心の依頼内容である。

【トーリの原文】
このたび、コミュニケーションを円滑にするための「ほめことば」について、単行本を発行しようと考えております。タイトルはいまだ未定ですが……(笑)。
そのなかで、会社でエラそうにしている50代のおじさんたちも、定年が近づくと次第に発言権がなくなってきます。その割にはプライドだけが残っている現状に、若者たちはついていけません。

 要件はいちばん大切な部分である。すずは細かく彼の改善例を提案していく。

 まずは、1段落目の文章だ。日頃からの頻繁なコミュニケーションで打ち解けている相手ならまだしも、初対面の相手に「(笑)」を付けるのがご法度なのは誰がみても分かるだろう。ただ、それだけではない。よくよくみると「いまだ未定」は重複表現になっている。

 さらに、2段落目にも指摘するべき点はある。問題は「エラそうにしている50代のおじさんたち」で、依頼する相手が同世代であれば、その人自身を批判していることにもなりかねない。これらをふまえて、すずが書き直したのが以下の文章だ。

【すずの改善例】
コミュニケーションを円滑にするための「ほめことば」をテーマに、単行本を発行したいと思い、企画しました。
昨今、過剰敬語が使われる一方で、ことばで相手を傷つけることなども社会問題になっています。これは、各世代に通ずるコミュニケーションの問題でないかと思うのです。さまざまな場面で、もう少し相手を上手にほめることができれば、円滑にことが進むのではないか、と実感することも多々あります。今回の企画は私自身の反省も含めたものでもあります。
もちろん、コミュニケーションの問題は、単に語彙(ごい)としての「ほめことば」に限定されるものではないことは重々承知しております。

(3)メールの締めこそ次につなげるチャンス

 メールの最後で、トーリは単行本執筆にあたる打ち合わせのお願いをした。先ほどの「要件」に続く内容であるが、ここでも彼はすずからアドバイスを受ける。

【トーリの原文】
そこで、蟻巣川先生に、この辺について書いていただければ、と思った次第です。
お打ち合わせを頂戴できれば、と思います。蟻巣川先生のご都合を教えていただけないでしょうか。よろしくお願いします。

 すずが初めに指摘したのは「この辺」という言葉の使い方。先ほど本書から紹介した「要件」を振り返ると、これでは相手が書くべき内容が「ほめことば」についてなのか「50代についていけない若者」なのかが分かりづらくぼやけてしまう。

 また、唐突に「お打ち合わせを頂戴できれば」とあっても目的がしっかりしていないと相手も混乱してしまうため、彼女は以下のように改善例を出す。

【すずの改善例】
そこで、社会情報とことばについて造詣の深い蟻巣川先生に、ご執筆いただけないかと思い、ご連絡差し上げた次第です。一度お会いして、改めて企画の趣旨をお話しするとともに、先生のご意見を頂戴する機会をいただきたいと存じます。
ご多用のところ大変恐縮ではありますが、蟻巣川先生のご都合のいい日時をご教示くださいませんでしょうか。お目通りかないますことを楽しみに、ご返事をお待ちしております。
立秋も過ぎ、ツクツクボウシの鳴き声がまじるようになりました。とはいえ、まだまだ暑く不安定な天候が続いております。どうぞ、ご自愛くださいませ。

 さて、この経験を通して、トーリがどのように成長していくかは本書を確認してもらいたい。本書はただ「言葉づかい」だけを指南する本ではなく、コミュニケーションにおける心構えの基本を分かりやすく伝えてくれる内容だ。日常で誰もがやってしまいそうなコミュニケーションのミスを防ぐには、うってつけの1冊である。

文=カネコシュウヘイ

この記事で紹介した書籍ほか

ほめ本 こころ通わすコミュニケーション

著:
出版社:
ぱる出版
発売日:
ISBN:
9784827212150