発達障害のチェックリストは有用? 「発達障害バブル」はつくられたものなのか

社会

公開日:2020/9/7

発達障害のウソ
『発達障害のウソ 専門家、製薬会社、マスコミの罪を問う(扶桑社新書)』(米田倫康/扶桑社)

 発達障害に関する本を書店でよく見かけるようになった。発達障害への理解が広まるとともに、わが子や自分自身が発達障害ではないか? と不安を抱えていた大人たちに一定の安堵をもたらしたのではないだろうか。

 しかし、ここで衝撃的な本が登場した。『発達障害のウソ 専門家、製薬会社、マスコミの罪を問う(扶桑社新書)』(米田倫康/扶桑社)は、発達障害がブームを超えてもはやバブルとなっているが、実際のところ、発達障害について本当に解明されていることはほとんどない、と述べる。発達障害の関連本を読んで、やっとすこし安堵した大人は、冷や水を浴びせられた気になるかもしれない。

 本書は、冒頭で事例を紹介している。2016年に障害者施設を襲撃し、19人を殺害したとされる男の、精神科医たちによる診断結果だ。

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精神科医A…診断「躁病」
精神科医B…診断「大麻精神病」「非社会性パーソナリティ障害」
精神科医C…診断「妄想性障害」「薬物性精神病性障害」
精神科医D…診断「抑うつ状態」「躁うつ病の疑い」

 同一人物にもかかわらず、全員が異なる診断を下しているのはなぜか。本書は、「発達障害や精神障害という精神科領域に限っては、絶対的に、あるいは客観的に正しい診断というものがそもそも存在しない」という。専門家の診断にもかかわらず、正しいとはいいきれない、というのだ。本書によれば、“誠実で有能な専門家”は、発達障害がそういう領域である事実を認め、自分たちにできることの限界も危うさも理解している。しかし、“一部の専門家”は、それを知ってか知らずか、「単なる仮説」や「個人の見解」を、科学的に証明された事実であるかのように発信し、時に権威を誇示している、と辛辣だ。

 発達障害の関連本を手に取る読者の少なくない人が、チェックリストに取り組んだことがあるだろう。例えば、「聞きもらしがある」「気が散りやすい」「常識が乏しい」などの内容で構成された簡易なチェックリストは、誰でも取り組みやすく、「あ、発達障害かも」「大丈夫だ」という気付きが得られやすく、有用に思える。しかし、本書はこういった簡易チェックリストに批判的だ。そもそも、発達障害の正しい診断は、前述のとおり専門家ですら難しい。ごく簡易なチェックリストで、正しい結果が得られるはずもない。かえって、誤ったレッテル貼りが助長されることがある。

 しかし、これは、意図的に仕掛けられたシステムなのかもしれない。発達障害バブルは、その前に起こったうつ病バブルの焼き直しである、と本書は指摘しているのだが、うつ病バブルは、製薬会社が患者を掘り起こし薬を売り出すための“啓発”活動で育ったと見ている。本書は、子どもや大人が、誤った発達障害のレッテル貼りでデタラメな投薬被害に遭うかもしれないことを危惧している。

「発達障害」という診断は、空気を読めない子どもや、ちょっと変わった言動をする大人を正当化する免罪符として使われる側面がある。しかし、本書は発達障害という言葉や表面的なイメージだけが広がることで、その概念が拡大され、捻じ曲げられている一部の実態を懸念している。発達障害の免罪符にすがりたい気持ちを否定するものではない。私たちは今一度、冷静な見方に立ち戻り、発達障害を正しく理解しようという真摯な姿勢が求められているのかもしれない。

文=ルートつつみ(https://twitter.com/root223