目覚めたら戦時中!? 特攻隊員に恋をした少女の運命は──。TikTokで話題の感動作が伝える大切なメッセージ

文芸・カルチャー

更新日:2020/9/21

※「第5回 レビュアー大賞」対象作品

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛/スターツ出版)

 太平洋戦争の終結から75年。当時を体験した人も少なくなり、戦争の記憶は日ごとに遠ざかりつつある。現代の中高生にとって、戦争は薄皮1枚隔てた「歴史上の出来事」。修学旅行で広島や長崎を訪れたり、当時の映像をテレビで見たりしても、現在と地続きのこととして捉えるのは難しいかもしれない。

 そこで力を発揮するのが、小説というメディアだ。主人公に自分を重ねて物語を追体験すれば、遠い日の出来事が我が事のように感じられ、戦争体験を風化させずに語り継ぐことができる。TikTok動画がきっかけで脚光を浴びた『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(汐見夏衛/スターツ出版)は、そんな小説の底力を感じさせる作品だ。

 主人公の加納百合は、反抗期を迎えた中学2年生。ある日、母親と喧嘩して家を飛び出した百合は、裏山の防空壕で一夜を過ごす。ふと目覚めると、そこは戦時中の日本。偶然通りかかった佐久間彰に助けられ、百合は彼のなじみの食堂で働くこととなる。着方のわからないモンペ、初めて食べる麦ごはん、共同井戸での水汲み。勝手がわからないながらも、店主のツルさんや常連の兵士たちの温かな人柄に触れ、百合はこの世界に溶け込んでゆく。

 中でも親身になってくれたのが、最初に出会った彰だ。百合と同じ年頃の妹を持つ彰は、彼女のことを気にかけ、キャラメルを分けてくれたり、百合の花が咲き誇る丘へ連れていってくれたりする。その優しさと誠実さに、百合はいつしか心惹かれていくのだった。

 だが、彼はほどなく戦地へ飛び立つ特攻隊員。あと数カ月、あと数日もすれば、国のために命を散らす運命にある。周りの人々は特攻隊員を「生き神様」と賞賛するが、現代からやってきた百合には、彼らがどうして死ななければならないのかわからない。残酷な現実を受け止めきれず、「自分から死にに行くなんて馬鹿だよ」とやりきれない思いを何度も彰にぶつけてしまう。そんな百合に対し、彰は決然とした口調でこう返す。「俺は、俺たちは、この命を最大限に生かして、日本を、国民を救うんだ。こんなにも栄誉なことがあるか?」。現代の感覚、感性を持つ百合にとって、個人の命を重んじるのは当たり前。一方、戦時下を生きる彰たちは、命を懸けて国を守ることに誇りを感じている。そこには、どうしても埋められない思想の違いがある。

 もちろん、すべての兵士が死を受け入れているわけではない。特攻隊の中には志願したことを後悔し、「なぜ俺たちが死ななければならないんだ」と嘆く者もいる。だが、その思いを口にすることは許されず、すべては「お国のために」という大義名分に絡め取られてしまう。むざむざと命を奪われる不条理、戦争の愚かしさと悲惨さを目の当たりにし、百合は憤りをぶつけずにいられない。その言葉は、今を生きる私たちの胸に強く響く。

 誰にだって、自分の意志で生きる権利があるのに。
 誰にだって、生きたいと願う権利があるのに。
 この時代では、そんな当然の権利も認められていないんだ。

 百合と彰が、どのような運命をたどるのか。彰は、どんな思いで百合と向き合っていたのか。すべてを知った時、息が詰まるほどの感動を味わうとともに、命の重さをあらためて感じずにいられない。号泣必至の結末を、ぜひその目で確かめてほしい。

 今も世界では、内戦や紛争が続いている。日本にとっても対岸の火事とは言いきれない。今を「戦前」にしないために何ができるのか。エンターテインメント性の高い小説でありながら、もう1度自分の足元を見つめ直したくなる作品だ。

文=野本由起

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第5回 レビュアー大賞

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