発行部数1000万超! 齋藤孝先生が悩める子どもたちに贈る現代版『君たちはどう生きるか』

文芸・カルチャー

更新日:2020/9/22

未来の自分に出会える古書店
『未来の自分に出会える古書店』(齋藤孝/文藝春秋)

 本は人生を豊かにしてくれるもの。しかし、「ウチの子は、どうも本を読むのが苦手みたいで、全然本を読まない」と悩むお父さん・お母さんも多いことだろう。子どもたちからすると、そもそも本を読む楽しさが分からない。ほんの少しのキッカケさえあれば、その面白さに気づくに違いないのだが、どうしても本を読むという行為は「難しい」ことのように捉えられがちだ。

 そんな本を読むのがあまり得意でないという子どもたちにこそ読んでほしい本がある。それは、『未来の自分に出会える古書店』(文藝春秋)。著書の発行部数が1000万部を超える明治大学教授・齋藤孝先生がはじめて小説スタイルに挑戦した一冊だ。この本は、まさに現代版『君たちはどう生きるか』。日々の生活の中でたくさんの悩みを抱える子どもたちに、この本は確かなヒントをくれる。

 主人公は、サッカーに熱中する中学2年生のメッシ君と、絵を描くことが大好きな高校2年生のゴッホ君。ある日、彼らの家の近所に古書店「人生堂」が開店した。さまざまな悩みを抱えるメッシ君とゴッホ君に、「人生堂」店主・サイトウさんは、さりげないアドバイスとオススメの本を教えてくれるのだ。

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 たとえば、メッシ君がサッカーチーム内で思うように活躍できずに悩んでいた時、サイトウさんは、まず「たまにはバスケもいいもんだよ」と漫画『スラムダンク』(井上雄彦)を薦めたり、「個人プレーのスポーツも面白いよ」と漫画『ピンポン』(松本大洋)を薦めたりする。かと思えば、意外なことに、ニーチェの『ツァラトゥストラ』まで薦めるのだ。メッシ君は「そんな分厚い本、読んだことないです」と躊躇するのだが、サイトウさんは言う。

「別に本を読むのに決まりも作法も無いからね。分厚いっていうだけで手に取らないより、パッと開いたところだけでも読んでもらったほうが本だってうれしいだろう。それに、読んだ人が面白いよって言ってくれたところを読んだほうがきっと面白い。」

 そうして、メッシ君は、サイトウさんが付箋をつけてくれた『ツァラトゥストラ』に挑戦してみるのだ。

 確かに、本は端から端まで読む必要はない。たった一言でも、自分の心に残る言葉に出会えれば十分だ。どの本もみんな、誰かが書いている文章だ。そこには誰かの体験や、誰かが頭の中で考えたこと、誰かが心で感じたことが書いてある。誰かと話をするように本を読めば、自分の掴みどころのない気持ちに答えが見えてくる。本を読んだだけで、不思議と自分自身をより理解できるような気がしてくる。自分がこれから目指す先が見えてくることだってある。本を読むことの楽しさは、きっとそういうところにある。

 コンプレックス、進路、受験、友情、いじめ、恋愛、身近な人の死…。メッシ君もゴッホ君も、サイトウさんに悩みを相談するうちに、少しずつ本が好きになっていく。と、同時に私たちも、サイトウさんが薦めてくれた本を実際に読んでみたくなる。思春期の少年なら誰しも突き当たるような問題に、道しるべを与えてくれる本たち。そんなきっかけを作ってくれるこの作品を、たくさんの悩みを抱えた現代の少年少女に読んでほしい。

文=アサトーミナミ