全員が最強。全員が英雄。一人だけが、勇者。あらゆる種族、能力の頂点が覇を競うバトル群像劇『異修羅』

文芸・カルチャー

公開日:2020/9/26

異修羅III 絶息無声禍
『異修羅III 絶息無声禍』(珪素/KADOKAWA)

 ゲームやファンタジーにおける「勇者」は、人々を恐怖に陥れる悪の魔王を倒して世界に平和をもたらす英雄の象徴だ。しかし、もし魔王を倒したその勇者が正体不明で名乗り出なかったら?

 小説投稿サイト「小説家になろう」で人気を博し、KADOKAWAのレーベル「電撃の新文芸」から出版化した『異修羅』は、“本物の魔王”がいなくなった後の世界で、不在の「勇者」の座を懸け、あらゆる種族、能力の最強を極めた修羅たちが覇を競う異世界バトルファンタジーだ。物語の舞台は、人間をはじめエルフ、ドワーフなどの異種族、さらには知恵持つ竜やオーガやゴブリンなどのモンスターが共存する異世界で、誰か特定の主人公を追うのではなく、一話ごとに異なるキャラクターにスポットを当て、人間模様や騒動を複数の視点から描く群像劇になっている。

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 例えば、一人目の修羅“柳の剣のソウジロウ”は、ジャージを羽織った小柄な少年だが、地球最後の柳生新陰流の剣士にして一目で相手の殺し方を見出す超直感と、卓越した剣技を備えた剣豪だ。なまくら刀であろうと、いかなる強固な鎧も一刀両断してしまう彼こそ剣士の最強といっても過言ではない。

“世界詞のキア”は、森で育った心優しいエルフの少女で、この世界の理を司る詞術を無制限に操り、いかなる事象も具現する全能の詞術士。彼女が望み、言葉にするだけですべての攻撃は無効化され、相手の命を奪うことすらできる。言葉で世界を支配する、まさに魔術師の最強だ。

 音すら置き去りにする神速の槍使い“音斬りシャルク”は、死者の骨から造られた人造モンスター・スケルトンの槍兵で、いかなる回避も許さぬ速度で相手に迫り一撃で急所を貫く槍使いの最強だ。記憶をなくし生前の自分の正体を追い求める彼は、さまざまな陣営を渡り歩き物語に関わってくる。

 その他にも、3本の腕で伝説の武器を扱うワイバーンの冒険者、絶対不可視の即死の刃持つ暗殺者、百本の魔剣を駆使する魔剣士、無限に再生するゴーレムなど、さまざまな奥義を極めた英雄や人知を超越した怪物が登場する。

 すでに刊行されているシリーズ1巻、2巻では、魔王亡き後の大陸を統一した王国・黄都と、そこからの独立を企む都市国家との紛争の中で激突する修羅たちの死闘が描かれた。ただ個人の争いで話が終わらないのは、その修羅たちを擁立する黄都二十九官と呼ばれる王国を牛耳る政治家たちの存在だ。自分が擁立する修羅を「勇者」に担ぎ上げんと野心や思惑が絡み合う国家規模の陰謀劇となっているのが、物語の展開をより奥深く壮大なものにしている。

 8月12日に発売された最新3巻『異修羅III 絶息無声禍』(珪素/KADOKAWA)では、騒乱を生き残り、己の実力を示して“本戦”への出場権を獲得した16人の修羅たちが黄都に集い、「勇者」を決定する一対一の勝ち抜きトーナメント戦「六合上覧」がついに幕を開ける。第一回戦から修羅たちの闘志と全力が惜しみなくぶつかり合う白熱の試合展開に度肝を抜かれる。

 さらにこれまで明かされていなかった“本物の魔王”の姿や、魔王に挑んだ当時の最強の“最初の一行”たちのキャラクターが初めて描かれた。何故、魔王は生まれ、誰に殺されたのか。何故、勇者は名乗り出ないのか。物語の核心に迫る内容になっているのも見逃せないところだ。

 はたしてトーナメントを勝ち上がる修羅は、どの最強か。修羅たちの戦いは、これからが熱い!

文=愛咲優詩