マザコン男にこじらせ女子…クセ強め男女は話題の結婚相談所で本当に成婚できるのか?

文芸・カルチャー

公開日:2020/10/17

私が結婚をしない本当の理由
『私が結婚をしない本当の理由』(志駕晃/中央公論新社)

「結婚適齢期」という言葉が年々重くのしかかってくる。マッチングアプリの登場などによって出会える人が増えた反面、相手を選ぶ難しさを痛感し、選ばれない現実に心が痛くなることも多い。

 一体、私はなんのために婚活をしているんだろう…。そう感じたときに手に取ってほしいのが『私が結婚をしない本当の理由』(中央公論新社)。本作は『スマホを落としただけなのに』(宝島社)でもおなじみの志駕晃氏が手掛けた、心にじんわりと染みる婚活ストーリーだ。

クセの強い4人の会員は3カ月で成婚できるのか…

 舞台となるのは、「スマイル結婚相談所」。会員になれば3カ月で結婚できるという噂を聞きつけ、ここにはさまざまな男女が訪ねてくる。

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 高級住宅街に住むマザコン御曹司やコミュ障でオタク気質な腐女子、高い理想を持つ一部上場企業勤務のこじらせ女子など、登場する会員たちはみなクセが強く、成婚までの道のりは長そう…。だが、新型コロナによって相談所の資金繰りが苦しくなったため、社長の岸本達也と唯一の従業員である葉山希はなんとかして、4人の会員たちを3カ月で成婚させようと奮闘する。

 しかし、実は岸本と葉山自身、独身だ。2人とも「結婚しない理由」を心に秘めながら会員たちの婚活をサポートする。その過程では、年齢や年収によってはじかれてしまうイマドキ婚活の難しさが生々しく描かれる。なかなか希望通りの人とマッチできない、選ばれなくて心が折れてしまった、などの「婚活あるある」が詰まっている。

 また、ストーリーが進むにつれ、一見クセが強そうに見えた4人に自分を重ねることも多い。親離れのタイミングを逃してしまった、恋愛経験がほとんどないなどのコンプレックスを抱えながら、なんとか変わろうともがく姿から読者は勇気や気づきを得るはずだ。

 なかでも筆者の心に刺さったのが、年収1000万円超えだが人に合わせることができないという男性会員が口にしたセリフ。

“肩書や学歴と結婚するわけじゃありませんから、そんなものには意味はないんです。空気のような存在で一緒にいて居心地がいいことが、きっと一番大切なんだと思います”

 ハっとさせられた。見た目や年収、学歴など、データベース上で分かることはたくさんあるが、何でも可視化できてしまう時代だからこそ、「見えないこと」に私たちはもっと目を向けていく必要があるのかもしれない。

 例えば、相手がプロフィールに記さないでおこうと決めたことが自分にとっては結婚の決め手になることもあるだろうし、相手が本当はどんなことに興味を持っていて、どんなときに自然な表情をするのかはデータベース上では知ることができない。きっと、そういうことこそ、もっと知るべきことなのだろう。

 こんな風に、婚活や結婚に対する考え方を揺さぶられるのは私たち読者だけではない。4人の変化を目の当たりにした岸本や葉山も心境が変化していく。そして明らかになるのは、岸本や葉山が「結婚しない本当の理由」。ぜひ、そこにも注目しつつ、本作を楽しんでほしい。

理想通りにならないのが「結婚」の醍醐味

 夢物語のようだった「結婚」が現実味のあるものへと変わっていくと、私たちは言いようのない怖さを感じてしまうこともある。双方の親や親戚も絡んでくる事柄だから、悩み、迷い、本当にこの人でいいのかと考えることもあるだろう。縁あって理想通りの相手と結婚できても、その後に妊活や親の介護といった試練が襲い掛かってくると、「こんなはずじゃ…」と不安を感じることもあるかもしれない。

 けれど、そうした困難を共に乗り越え、笑顔を増やしていくことが「結婚する」ということなのだろう。覚悟を決め、一緒に腹をくくりつつ寄り添い合うから、結婚は「人生の墓場」というのかもしれない。これまでの婚活観が揺らぎ、私が結婚相手に本当に求めたいものは何なのだろう…と考えさせられる本作は、恋愛指南本でもある。

文=古川諭香

★著者・志駕晃氏の各社担当者が発信するTwitterアカウント「志賀祭」でも、情報が続々発信されています。こちらも要チェック!
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