会話がないまま5年がすぎた夫婦の行く末は? SNSでバズって賛否両論巻き起こった野原広子さんの最新作『妻が口をきいてくれません』
更新日:2020/12/7
「妻が口をきいてくれない。でもご飯は作ってくれる」こんな話を聞いたらどう感じるだろうか。史上最大級の謎? それとも“よくあること”だろうか。『妻が口をきいてくれません』(集英社)の作者・野原広子さんによれば、Webサイト「よみタイ」で連載が始まったころ、「ウチの家庭のぞきました?」と何度か言われたそうだ。巷ではけっこうよくあることらしい。
連載時に累計3000万PVを超えた漫画に、描き下ろしを加えて刊行される本作。作者の野原広子さんは『離婚してもいいですか? 翔子の場合』『消えたママ友』など数々のヒット作を生んできた人気作家。巧みな構成によって、よくあるはずの日常風景がまるでフィクションのように目に映り、いつの間にかはまっている“沼”感は本作でも健在。ほのぼのとしているようで、人間の深いところにあるブラックな感情がじわじわとえぐり出される。
自分の気持ち、相手の気持ちがよくわかる心理描写
本書は「夫 誠の章」と「妻 美咲の章」が順番に描かれ、5年間にわたる月日のなかで、それぞれの気持ちがどう変わっていったのかを明らかにしていく。
その中で、妻が口をきかない理由もはっきりと描かれる。「かわいそうとはわかっているけど、どうやって元に戻ればいいのかわからない」「夫のことは嫌いだけど不幸になってほしいわけじゃない(だからご飯はつくる)」など、程度の大小はあれど共感できる妻は少なくないのではないだろうか。筆者も同じく、美咲によって言語化されることで、改めて自分の気持ちに気づけた気がしている。
いっぽう、誠は5年間のなかで、積極的に家事をするようになり、美咲に「ありがとう」と伝えるようになるなど徐々に変わっていく。“夫も頑張っているんだな”と反省して、夫にすこし優しくできるようになる人もいるだろうか。シンプルにコミックとして楽しめる本作だが、自分たち夫婦のことについても向き合うきっかけになりそうだ。
複雑な女ごころ。夫にとってはミステリーかも
連載時から賛否両論あったという本作。夫側の目線で読む人からは「2人はこれからどうなってしまうのか」と心配する声が届き、妻側の目線で読む人からは夫への深い怒りの言葉が届いたという。どんな立場で読むかによって感じ方が違うところが興味深い。
そして物語は衝撃のラストを迎える。これは“絶望”なのだろうか、それとも“希望”? 明確な答えを残さないからこそ、いつまでも余韻が残り、また読み返したくなる読後感。それにしても、女ごころというのはとてつもなくわかりにくく、夫にとってかなりミステリーかも。
読み終えて感じるのは、夫と妻はまったく別の生き物で、いつも感じ方が違っている。そして、“あの時こうしていたら違う未来が待っていたかも”と思える場面がたくさんあったこと。
もし妻との関係をどうにかしたいと思っている夫は、本書を参照しながら、“手遅れ”にならないうちに手を打ったほうがいいかもしれない。「夫のことがどうでもよくなってきた」「やり直し方がわからない」と夫への気持ちが停滞している妻も、いまよりちょっと幸せになれるヒントが見つかるのではないだろうか。
文=麻布たぬ
【試し読みはこちら】
▶「なにかしたなら謝るから」理由もわからずとりあえず謝る夫。余計なひと言が妻の怒りを誘う…!/妻が口をきいてくれません①
この記事で紹介した書籍ほか

妻が口をきいてくれません
- 著:
- 野原 広子
- 出版社:
- 集英社
- 発売日:
- 2020/11/26
- ISBN:
- 9784087880489
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