函館、房総、大阪、出雲、姫路…土地の美味とパワースポットを満喫する旅小説が、脳内旅行のおともにも「ひとり旅」ガイドにもなる!

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/5

ひとり旅日和 縁結び!
『ひとり旅日和 縁結び!』(秋川滝美/KADOKAWA)

 おうちで過ごす楽しみに、あらためて気がついた2020年。とはいえ、そろそろ旅やお出かけも恋しくなってきませんか? そんな人におすすめしたいのが、『ひとり旅日和』(秋川滝美/KADOKAWA)。ページをめくれば、お部屋から一歩も出なくても、「ひとり旅」を満喫できるのです。

 東京都内に住む主人公の梶倉日和は、自他共に認める人見知り。要領も極めて悪く、事務用品を扱う会社で働きはじめて2年になるが、直属の上司(上司としてはやや難あり?)に嫌味や皮肉を言われ続けて、退職を考えるまでになっていた。

 そんな日和に「ストレス解消の手段」としてひとり旅をすすめてくれたのは、勤務先の社長・小宮山だ。はじめはひとりでの旅に後込みしていた日和だが、小宮山のトークのおかげで興味を惹かれ、ガイドブックを探してみようと仕事帰りに書店に寄る。と、そこにいたのは、会社の先輩である加賀麗佳。実は彼女は、ひとり旅の達人だったのだ。

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 麗佳にも背中を押され、おっかなびっくりはじめてのひとり旅に出かけた日和は、その土地の食べ物に舌鼓を打ち、新しい経験から得た発見でちょっとだけ成長し、ひとり旅の虜になった。だんだんと遠くまで足をのばせるようになった日和が、『ひとり旅日和』に続く『ひとり旅日和 縁結び!』(秋川滝美/ KADOKAWA)で最初の目的地に設定したのは、函館だ。なぜ函館を選んだのか? 北海道には美味しいものがたくさんあるし、パワースポット巡りもできるから。なにより、はじめてのひとり旅で出会った気になる人──旅好きの吉永蓮斗が、冬の北海道を訪れたらしいとSNSで知ったからだ。

 かくして日和は、『ひとり旅日和 縁結び!』でも、函館を皮切りに、房総、大阪、出雲、姫路と、その土地の美味とパワースポットを満喫しながら、できることを広げ、新たな考え方を手に入れて、少しずつ変わってゆく。さらには、旅の指南役である麗佳の身の上や、日和と蓮斗の関係、職場の人間模様も、ゆるやかに変化を見せはじめ…?

 それぞれの土地の様子が詳しく、しかも臨場感たっぷりに綴られる本シリーズは、実際の旅のおともにするだけでなく、自宅に居ながらその土地に思いを馳せるのにも最適だ。日和の旅行先がよく知っている場所ならば、意外な発見があるかもしれない。旅の予習として読むのはもちろん、復習として読むのもいいだろう。

 さらに、『ひとり旅日和 縁結び!』は、『ひとり旅日和』の続刊ではあるけれど、続刊から読んでもストーリーはじゅうぶん理解できるし、おもしろい。なにしろ、ひとり旅の醍醐味は、「好きなものを、好きなときに、好きなだけ、見たり食べたりできる」こと。読書という「ひとり旅」だって、好きなエピソードから、好きな順で、好きな長さを、自由に読むことが楽しいのだ。

 日本全国津々浦々、美味しいものと、新しい自分に出会う「ひとり旅」のガイドブックとなる旅小説。本書を片手に、頭の中でも、実際にでも、その土地を訪れてみたならば、人生をもっと楽しめること請け合いだ。

文=三田ゆき