イモトアヤコさんが大好きな人たちについてを書いた、200ページにわたるラブレター

文芸・カルチャー

更新日:2020/12/8

棚からつぶ貝
『棚からつぶ貝』(イモトアヤコ/文藝春秋)

 なんのてらいもなく誰かのことを褒めたり、好きだと言ったりできるのは、それだけでもう、一つの才能と言っていいんじゃないかと思う。イモトアヤコさんの初エッセイ集『棚からつぶ貝』(文藝春秋)には「大好きな人たちへの、イモト流ラブレター」とのキャッチフレーズがついている。この一言がすべてを表しているくらい、どのページも誰かに対する「好き」と「すごい」のオンパレード。それがまた、まったく嫌味がないのである。海外ロケで知り合った人たち、番組のスタッフさん、芸能界の友達、家族、イモトさんが愛してやまない安室奈美恵さん、そして行きつけの整体の先生まで。ただただ、イモトさんが本心から、好きな人に対して好きと言っているからこそ、気持ちよく読めて、それが読み手にもダイレクトに伝わってくるのだ。

 中でも、イモトさんが女優の友達について書いた章がとてもいい。誰もがいい意味でざっくばらんな姿をイモトさんの前で見せているのである。

 一人目は、「おもしろ女優」の章に登場する木村佳乃さん。イモトさんとは公私ともに仲が良く、結婚に至るまでの恋愛相談でも木村さんに頼りっきりだったとか。

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 この木村佳乃さんが、大女優にもかかわらず、ロケではNGなしで体を張るらしい。泥水に飛び込み、水草を纏い、ヌルヌルスライダーを滑り、と番組ではじけにはじける様子に、「もう、とにもかくにも面白いのだ」とイモトさん。そればかりか、カメラの回っていない場でもお茶目だという。

「車移動が長く、移動中私は車内で爆睡していた。すると突然口の中に何かがねじ込まれた。慌てて目を開けると、目の前に干し芋を私の口に突っ込んでいる佳乃さんがいた。しかもめちゃくちゃ爆笑している。『イモトちゃんがお口開けて寝ていたから』と言われた。なんだかよく分からない理由に加えて、笑っている佳乃さんをみていたら、自然とこちらも可笑しくなってきて干し芋くわえながら爆笑した」

 このほかにも、ロケ先を知る前のイモトさんに「ウズベキスタンに決まったらしいよ」と謎の嘘をつくなど、隙あらばイタズラ。木村佳乃さんが根っからのエンターテイナーなのと同時に、きっとイモトさんの人柄が相手をそうさせるのだろうと思う。

 2人目は、「気持ちのいい女」という章に出てくる北川景子さん。共演するドラマの顔合わせにて、挨拶を「DAI語」で締めて大爆笑をかっさらった北川さん。

「完璧な挨拶だった。あれぞ私が憧れるウィットに富んだ大人の挨拶。感動している間に自分の番になり、わたしゃ芸人らしからぬヌルッとした当たり障りのない挨拶をしてしまった」

 と一瞬で心を掴まれ、撮影が終わってからも定期的にご飯ディズニーランドだのに行く仲に。イモトさんの結婚祝いには、動物がたくさん描かれた信じられないくらい大きな大きなお皿をもらったそうだ。

「開けてすぐ思わず私は『でかっ!!!!』と言った。それを聞いた景子ちゃんは、『それを聴きたくてこれにした』と笑っていた」

 と、やっぱりここでもイモトさんは、売れっ子女優から茶目っ気のあるサプライズをされるのであった。

 そしてもう一人、「わたしの大好きな人」の章に出てくる竹内結子さん。ここでもお茶目なエピソードが次々と出てくる。

「大阪のホテルではピタピタのスパッツをはいて、レディー・ガガの曲に合わせてランウェイごっこをする結子。(中略)太眉メイクをする結子。(中略)プールで『押すな押すな押すな』といって3回目でちゃんと落ちてくれる結子」

 本書の大元は過去に雑誌で連載していたエッセイだ。刊行にあたって、すべての章に現在のイモトさんが数行程度、近況を書き足している。多くは、その章に出てくる人に対しての改めての感謝だったり、コロナ禍で今どうしているかを案じていたり。竹内さんの章には、彼女に向けたメッセージが書かれていた。イモトさんはどんな思いで、その数行を書き足したのだろう。そのメッセージが、竹内さんにも届くといいなと思う。

 ほかにも、やたらと良い人だったりお茶目だったりという人々がこの本の中にはたくさん登場する。イモトさんはそれらを真っ直ぐに称賛し、憧れ、大好きだと言う。でも、それはほかでもないイモトさんが生み出したものなのではないだろうか。人間関係は相互に影響を与えるものだ。イモトさん自身に気を許したくなる何かだったり魅力だったりがあるからこそだと、私は思う。

「珍獣ハンター」という肩書きでありながら、珍獣以上に人間の心を掴み、掴まれる様子がこの一冊に詰まっているのだ。

文=朝井麻由美