爆笑問題・太田のお笑い論! 不道徳が面白かったテレビの世界。芸だけで食べていくこととは?

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公開日:2021/1/10

芸人人語
『芸人人語』(太田光/朝日新聞出版)

 爆笑問題の太田光氏は、政治や社会問題に一家言あるお笑い芸人で、テレビ番組で政治家や評論家と直に討論したり、時評的なコラムも執筆したりしている。中沢新一との共著『憲法九条を世界遺産に』(集英社)など著作も多く、芸人の中でも異彩を放つ存在だ。

 本書『芸人人語』(太田光/朝日新聞出版)をおおまかに分けると、自身のお笑い論、安倍政権の評価、コロナ禍の問題が扱われている。時事ネタでスルーできなかったためか、分量的には約3分の1がコロナに紙幅が割かれている。だが、筆者が本書のキモとなっていると感じたのは、劈頭を飾るテレビ論だ。

 子供の頃からテレビっ子だったという65年生まれの太田氏は、当時テレビは「不道徳であり、だからこそ面白かった」と述懐する。コント55号もドリフターズもいつもPTAから攻撃されていたが、大人が許容するような安心な番組を見ても、ちっとも面白くなかったと言う。

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 歴史は繰り返す。エルヴィス・プレスリーが50年代後半に登場した時、彼の歌いながら腰を動かすアクションが卑猥だと大人たちから非難され、大問題になったことがある。テレビ出演時には腰から上しか映されなかったという。

 安全なだけの番組はつまらないが、倫理に反すれば大好きなテレビに出られない。芸人は自分の中にこうした矛盾を抱え、悩まされてきた。もちろん太田氏もそのひとり。おそらく、芸人にとって一生つきまとう問題でもある。

テレビっていうのは昔で言うテキ屋。バナナの叩き売りだよ。寄ってらっしゃい見てらっしゃいって人を呼びとめて見てもらう。視聴者は通行人。(中略)テレビは通行人の足をどう止めさせられるか。その工夫だよ。

 放送作家の高田文夫氏は上記のように述べたそうだが、実に的を射ている。どれだけ理屈を述べても、最終的にはどれだけの人を笑わせたか、その結果がすべて。そして、そのためには自分の失敗もどんどん笑ってほしいと太田氏は言う。確かに、人は人の失敗を笑う。お笑い芸人である太田氏が道ですっ転んだ姿を見ると人々は笑うだろうが、これは太田氏にとっては本望。二枚目俳優が同じことをやっても心配はしても笑わないだろう。

 太田は敬愛するチャールズ・チャップリンが滑稽な姿をさらし、人々の笑いを誘ったことを例に出し、芸だけで食べていくことは一生恥をさらしていくことだと言う。確かに壮大な仕掛けを含むどっきり番組は時代が変わっても一向になくならない。ハニー・トラップに引っかかり、醜態をさらす芸人を笑うことで、視聴者は溜飲を下げるのだ。

 今はテレビ以外に自分を表現するための媒体はいくらでもある。小学生へのアンケートでは「なりたい職業」にYouTuberが1位となったように。太田氏が表現の場としてそこまでテレビに固執するのは、幼少期の原体験が大きいのだろうか。確かに今後、無菌室で純粋培養されたような、薄っぺらなテレビ番組が量産されていったら、それこそ視聴率が下落しスポンサーもつかなくなる。テレビはそこで本当に終わりである。太田氏はかつて自分が影響を受けたテレビ番組に恩返しをしたいのかもしれない。

 ちなみに太田氏は、小泉総理と安倍総理の時の「桜を見る会」に出席している。意外と思われるかもしれないが、太田氏が日和ったわけではないと思う。どうにかこの「不謹慎な笑いが絶対に許されない」場所に爪痕を残そうとしての行動だと思う。結果は、小泉氏に「テレビで悪口言わせてもらってます」と述べただけだったが、そこまで踏み込んだだけでもあっぱれだ。

文=土佐有明