千葉ロッテを黒字化させた立役者が実践した3つの「ベーシックな行動」とは?

仕事術

公開日:2021/3/1

経営の正解はすべて社員が知っている
『経営の正解はすべて社員が知っている』(山室晋也/ポプラ社)

 春は異動シーズン。中には新たに管理職となって人をリードする立場になるという人もいることだろう。ステップアップは嬉しいけれど、どうリーダーシップをとるべきか…そんな不安があるならば『経営の正解はすべて社員が知っている』(山室晋也/ポプラ社)を手にとってみてほしい。

 本書はかつて赤字続きだったプロ野球球団・千葉ロッテマリーンズを球団社長として5年で黒字化させた立役者であり、現在清水エスパルスの球団社長を務める山室晋也氏が書き下ろした経営改革論&リーダー論というべきビジネス書。

 「球団社長とか経営改革とか、普通のリーダーにはハードルが高いのでは?」と思うかもしれないが、氏の成功はいわゆる「強力なリーダーシップ」の結果ではなく、ベーシックな行動の積み重ねによってうまれてきたもの。だからこそ、組織の大小や経験値、リーダー自身の個性に関わらず多くの人のヒントになりそうなのだ。

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就任直後に行うのは「社員全員へのヒアリング」

 マリーンズの球団社長になる前、みずほ銀行の支店長や関連企業のトップを歴任してきた山室氏は、新しい組織のトップに着任すると必ず「メンバー全員へのヒアリング」を実行してきたという。メンバーからすれば「今度のトップはどんなやつか?」と警戒するのは当然で、その警戒を解いてメンバーの「生の声」を知らなければ組織運営は進まないからだ。

 ヒアリングに際しては事前に「ヒアリングシート」(良い点、改善すべき点、提案・意見・展望、仕事上の夢などを書かせるシンプルなもの)をメンバーに記入してもらい、ひとり30分ほどで実施。さらには各部署と1~2週間に1回、15分ほどの「ショートミーティング」も続けたという。

 「全メンバーに均等に発言の機会を設け、全メンバーの話を均等に聞く。それこそが『メンバーが本音で話してくれる関係』を築くために欠かせない要素」(山室氏)なのだ。

「メンバーが面白がる仕事」を増やして意識を変える

 ヒアリングの結果、ネガティブな組織の素顔ばかりが見えることもあるが、組織づくりのためにはそうしたネガティブな面をポジティブに転換させ、さらにそれを増幅させなければならない。思わずげんなりしてしまいそうだが、それでもメンバーが辞めていないということは、閉塞感や不満があっても「まだ職場に期待を抱いている」から。前述のヒアリングシートにある「仕事の夢」もヒントにしながら、リーダーはメンバー個々人のやりたいことに真摯に向き合い、それを実現するためのお膳立てをしていくといい。

 ちなみにマリーンズ時代に実現した「東京ドームでの試合開催」や「選手やファンと『恋するフォーチュンクッキー』を踊る」なども、こうした「社員の夢」から始まった企画だという。「夢=やりたいこと」が実現できたら当然仕事は「面白く」なる。組織も大きく動き出すのだ。

「表彰制度」を設けてモチベーションアップ

 日々の仕事をより面白いと感じてもらうために山室氏が力を入れたのが「表彰制度」だ。よくある策ではあるが、彼がこだわったのは「メンバー全員」に表彰が行き届くこと。表彰対象外になりがちな総務・経理・人事などの間接部門向けに「書類キラーパス賞」(難しい案件をさっと上司に回して、早く決済したことを表彰)などの賞を増設し、全体のモチベーションアップに取り組んだという。

 賞品は500円程度の図書カードなど軽めだが「全メンバーの前で表彰され、拍手を受けながら賞品を受け取ると、誰もが皆誇らしげで、嬉しそうな表情を見せてくれます」(山室氏)と効果は抜群だったようだ。

 球団経営という仕事のスケールは大きくても、実践したことの「軸」は上記のようにかなりベーシックだ。ちなみにここで紹介したのはあくまで導入的な部分だが、このほか顧客との関係の作り方や経営体質の強化など、本書には著者の経験に基づいた実践的な知恵がぎっしり詰まっている。思わず「こんな組織だったら働いてみたいかも!」とちょっとワクワクしたりして…それも「山室流リーダーシップ」の有効性の証かもしれない。

文=荒井理恵