「羅漢様」「ウマタ・ケーキ」──この言葉の意味、分かりますか? 戦前の“流行語”ともいえる「尖端語」の数々!

文芸・カルチャー

公開日:2021/4/3

戦前尖端語辞典
『戦前尖端語辞典』(平山亜佐子:著、山田参助:イラスト/左右社)

 人間が用いる言葉はそれぞれ基本はありながらも、日々アップデートされている。だから時には「ぴえん」とか「まじまんじ」といった、一部界隈でしか理解されないような尖った言葉も生まれるのだ。そのような現状に「日本語が乱れている」などという嘆きが、ご年配の方々あたりから聞こえてきそうではある。しかし、実はご年配の方々よりさらに前の時代にも、そういった尖った言葉はたくさんあったのだ。『戦前尖端語辞典』(平山亜佐子:著、山田参助:イラスト/左右社)には、大正、昭和初期の時代に流行した「尖端語」が広く収められている。

 本書は大正8年から昭和15年にかけて発行された新語・流行語辞典およそ30冊から、さまざまな言葉をジャンルごとにセレクトして収録している。聞いたことのない言葉から、現在と同じ言葉でも意味の違うものなど、実に多種多様だ。ここでは本書で取り上げられている尖端語を、私の独断と偏見で恐縮だが、面白そうなものをチョイスして紹介していきたい。

羅漢様(らかんさま)

 字面的には強そうな感じもするが、実はコレ「働かない人」のこと。つまり「はたらかん」から「はた」を省略したものなのである。現代語なら「ニート」が近いかもしれないが、こちらのほうがより直截的なダジャレなのが面白い。

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インフルエンス

 これは現代でも普通に通じる言葉だと思われるが、「影響」「感化」「勢力」「教化」などの意味の外来語。今だと「インフルエンサー」なんて言葉もあるので、そう考えると戦前の時代の人々が身近に感じられるのが不思議だ。

ゲシュペンシュテル

 英語でいうところの「モンスター」。つまり「怪物」の意味。ドイツ語で流行るあたりが時代である。またモダン語としては「グロテスクの徹底した代物に奉る尊称」ということなので、グロいものも「怪物」に含まれるようだ。

ウマタ・ケーキ

 ケーキが付くのでお菓子類を想像した人は正解で、意味は「駄菓子」。字を見れば、「駄」は「馬」と「太」に分解できるのが由来だ。女学生用語ということで、案外と現代に通じるセンスを感じられる……気もする。

エスペラント

 現在、世界共通語といえば「英語」が思い浮かぶだろうが、実は別に世界共通語を目指して作られた言語がある。それが「エスペラント」だ。日本では1906年に「日本エスペラント協会」が発足し、二葉亭四迷が日本初のエスペラント本『世界語』を出すなど流行を見せた過去があるそうだ。

 こうして戦前の「尖端語」を通覧していると、非常に「わかりみ」のある言葉が多いことに気づかされる。まあ時代は違えど、同じ日本人なのだから当然といえば当然だ。著名な言語学者は「日本語に乱れなどない、変化があるだけ」だと語ったという。言葉が世相や流行に影響を受けるのは、確かに自然なことかもしれない。だからこそ「流行語」なのであり、極まれば「尖端語」なのだろう。そして時代を超えて生き残ればそれは「本物」であり、あるいは「ぴえん」なんて言葉が広辞苑に掲載される日が来る……のかもしれない。

文=木谷誠

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