なぜ不文律を破る第7世代は嫌われないのか? 第1世代から第7世代までの芸人世代を振り返る

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公開日:2021/5/12

お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで
『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(ラリー遠田/光文社)

 2018年12月22日、お笑い芸人・霜降り明星のせいやが、深夜のラジオ番組でこのような発言をした。

ほんまにその新しい、勝手に次の年号の世代みたいな、「第7世代」みたいなのつけて、YouTuberとかハナコもそうですけど、僕ら20代だけで固まってもええんちゃうかな。

 ハナコやゆりやんレトリィバァなどの同年代の若手芸人を、「第7世代」と称して、同世代で固まって芸能界を闘っていこう。このような考えを深夜ラジオで発したのである。このとき霜降り明星は『M-1グランプリ』優勝直後ということもあり、ちょっとした興奮状態だった。そのためせいやの発言にそれほど意図はなかったはず。

 ところがその後、「第7世代」というワードが独り歩きして、現在までの大ブームを巻き起こす。第7世代を冠する新番組が乱立し、既存の番組でも第7世代をキャスティングすることが、視聴者を画面に引きつけるアクセントになった。一時期に比べるとブームは落ち着きを見せているが、狭き芸能界で彼らが残した爪痕は大きく、今も第7世代のポジションは大きなウェイトを占めている。

 なにより多くの人が「お笑い界の世代」に関心を持ったのは間違いない。お笑い界の第1世代から第7世代まで、それぞれどんな芸人が当てはまって、どんな歴史を歩んできたのか。

 その興味を満たす本として、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(ラリー遠田/光文社)は、大変参考になるだろう。

 著者は「お笑い評論家」として活動するラリー遠田氏。お笑いを切り口に、さまざまな著書を執筆してきた。そして本書は、お笑い世代論に関する見解をまとめた「決定版」である。同時に、テレビにおけるお笑い文化が勃興してから、現在に至るまでの歴史の書でもある。そこで本稿では、歴史に沿うかたちで、駆け足で本書をご紹介したい。

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お笑い文化の礎となった第1世代、それを大きく発展させた第2世代

 第1世代の主な芸人には、いかりや長介と萩本欽一が当てはまるそうだ。この世代の特徴は戦争を経験していること。「いかに生きるか」という過酷な困難を経験し、笑芸で稼ぐために必死に活動していたら、いつの間にかテレビに流れ着いていた。いかりやはコント番組で新ネタを供給し続け、萩本は「素人いじり」を発明することで、視聴者を釘付けにした。まだテレビ文化が芽吹いていない中で、彼らの芸がとても新しく見えた。第1世代が、現在のテレビにおけるお笑いの「文化の礎」を作ったのである。

 第2世代は、ビートたけしが当てはまる。この世代の特徴は、団塊の世代であること。そして戦争を知らない新しい価値観で生きているのだが、親世代の価値観にも縛られているところがあり、その狭間で引き裂かれるようにして生きているところだ。その点において、たけしによる本質を見抜いた批評的なお笑いは、多くの団塊世代に刺さった。さらに「早朝バズーカ」をはじめとする革新的な企画を発明し、第1世代が生み出したテレビにおけるお笑い文化を大きく発展させた。

松本人志という絶対的レジェンド

 そして第3世代、ダウンタウンの登場である。この世代の特徴は、お笑い芸人の地位を向上させ、カリスマとして、またはアイドルとして、若者から熱狂的に支持される土壌を作ったことにある。さらに松本人志は、お笑い界の発明家と表現しても過言ではないだろう。大喜利を現在のスタイルで広く一般化させたこと、「すべらない話」という概念を生み出したこと、「スベる」「カブせる」「イジる」などの造語を、広く通用する日本語に昇華させてしまったこと。なにより松本人志が笑いを追求し続けたことで、お笑い界全体のレベルが底上げされた。この世代の活躍によって、お笑いを目指す人が続出し、現在のようにテレビで芸人を見ない日はなくなったのである。