なぜ不文律を破る第7世代は嫌われないのか? 第1世代から第7世代までの芸人世代を振り返る

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公開日:2021/5/12

群雄割拠を生きる第4世代以降の芸人たち

 続いて第4世代から第6世代までは、ひとまとめでご紹介したい。というのも、著者である遠田氏は「第4世代から第6世代の間には明確な相違点が少なく、それぞれを厳密に分けて考えることが難しいからだ」と述べている。第7世代という言葉が独り歩きした弊害だろうか。この世代から、芸人ならではの苦労を強いられるようになる。

 まず天然素材をはじめとするお笑いブームが到来したが、わずか数年で過ぎ去って、同時にネタ番組もほぼ壊滅してしまった。さらに上の世代の芸人たちがまだ現役であるため、「上がつっかえている」状態。活躍の場を互いに奪い合う群雄割拠に見舞われた。そんな中で、テレビカメラの小型化やテロップ技術の向上で、テレビ番組の品質は進化を遂げる。結果、番組スタッフの意図に合わせて器用に動ける芸人が求められるようになった。そこで頭角を現したナインティナインやロンドンブーツ1号2号が、第4世代と第5世代の代表といえるという。

 そして第6世代は「谷間の世代」といわれるほど苦戦を強いられている。オリエンタルラジオやキングコングがこの世代の代表だが、ともにテレビの世界から離れて、独自の道を歩むようになった。彼らはダウンタウンをはじめとする上の世代に憧れつつも、とても追い越せない「諦め」も一緒に秘めている。その陰のオーラを視聴者に見抜かれたのか、2010年代に彼らの世代で固めた番組が誕生したが、早々と姿を消してしまった。さらにテレビ不況が本格化した世代でもあるので、かつて憧れた派手なバラエティ番組はほぼ不可能になってしまった。

 しかし苦境を生きる芸人だけあって、遠田氏は「この世代は時代の変化に適応する器用さが備わっており、生き残った芸人たちは一様にクレバーでたくましい」と評する。彼らのお笑いの地肩は確かなものがあるので、いずれ第6世代がテレビを謳歌する日がきてもおかしくない。

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これまでの世代とまったく違う価値観を持つ第7世代

 現在の「お笑い世代論」を生み出した震源地ともいえる第7世代。その代表格として霜降り明星やEXITがいる。この世代の特徴は、「さとり世代」であるために、これまでの世代とまったく違う価値観を持っていることだ。ほかの芸人を押しのけて自分をアピールすることを好まず、「コンビ仲がいいことをみせるな」「努力しているところをみせるな」といった芸人の不文律も軽々と超越する。それでいてお笑いに対しては人一倍真面目だ。「チャラいのに真面目」で売れたEXITが、それをまさしく体現する。だから彼らは芸能界で嫌われることなく、ファンに飽きられることなく、今も確固たる居場所を築く。

 ここまでが、遠田氏の考えるお笑い世代論であり、テレビにおけるお笑いの歴史である。ずいぶん駆け足で紹介してきたので、疑問や違和感を持つ人もいるかもしれない。そのときはぜひ本書で正確な世代論と史実を目にしてほしい。

 最後に、これは個人的な意見なのだが、いずれ第7世代という「ブーム」は終わりを迎えると、私は考えている。誰もが熱狂した漫才ブームも、芸人によるユニットグループも、わずか数年であっという間に世間が冷めた。そのとき生き残るのは、誰もが「面白い!」と笑う実力芸人だけだろう。

 芸人は、誰かに笑ってほしいという一心で、くだらないことに本気を出す稀有な人種である。もし第7世代ブームが去ったとしても、芸人という素晴らしい存在だけは、忘れないでほしい。そんな勝手な言葉を添えて、本稿をしめくくりたい。

文=いのうえゆきひろ