「とんで」苦手克服! ユーモア絵本だけど、おおまじめ。大なわをとんだケンタの物語『なわとびょ〜ん』

文芸・カルチャー

公開日:2021/5/28

なわとびょ〜ん
『なわとびょ〜ん』(シゲリカツヒコ/KADOKAWA)

 苦手なことから逃げ出したくなる経験、誰にでもありますよね。でもそれ、本当に苦手なのでしょうか? じつは苦手だと思い込んでいるだけかもしれません。

なわとびょ〜ん

『なわとびょ〜ん』(シゲリカツヒコ/KADOKAWA)に登場するケンタは大なわとびが苦手です。「いっつもケンタがひっかかるよな」と怒るツヨシのことはもっと苦手。もうすぐクラス対抗の大なわとび大会。リーダーのツヨシから、放課後に公園で特訓するように言われるのですが……。

なわとびょ〜ん

 特訓するのがイヤで逃げ出そうとするケンタ。そこに不思議なカエルおとこが現れます。大なわを持ったその男はケンタになわを握らせ、ものすごい力でひっぱりました。

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なわとびょ〜ん

 気がつくと、お年寄りがたくさん集まる公園にきていました。大なわを回し始めると、なんと腰の曲がっていたおじいさんたちが一斉にジャンプするではありませんか! なんと、この大なわは「絶対に引っかからないなわ」なのです。

なわとびょ〜ん

 大きなカブや、交通渋滞している車、殿様を襲おうと企む忍者など、“こんなものまで!?”と驚くような人やモノも次々とジャンプ!

「はっ!」という掛け声とともに、大きすぎて抜けなかったカブが抜け、交通渋滞していた車が動き出し、隠れていた忍者が現れ…それぞれの問題が解決していきます。登場する人物や動物の表情が絶妙におもしろく、掛け声でテンポをつけながら読めば、ページをめくるたびに子どもが笑ってくれること間違いなし。

 さて、次はケンタがとぶ番です。いつの間にかケンタは、特訓をする公園へきていました。きっと今度はとべるはず。だって「絶対に引っかからないなわ」なのですから。

苦手という「思い込み」に気づかせてくれる

 本書はユーモア絵本ですが、おおまじめなテーマが盛り込まれています。ケンタが大なわを苦手だと感じていたのは、じつは「自分にはできない」という思い込みだったことに気づかされるのです。いったいどんな出来事があったのか、本書で注目してみてください。お子さんが感じている「苦手な友だち」や「食べられない野菜」も、じつは思い込みかもしれませんよ。

 それに、ケンタが逃げようとしていたのは、大なわではなく、ケンタを責めるリーダーのツヨシだったのかもしれません。そんなツヨシだって、大会に勝つために必死なのです。ケンタを責める言葉が口をついて出てしまっただけかもしれません。本書のラストでは、思わぬ友情が芽生える感動の1シーンも用意されています。

 中には魔法のようなシーンも登場しますが、ケンタの心の動きは現実そのもの。子どもってファンタジーが大好きで、自分なりに成長できるものを見つけては、日常に持ち帰ってきたりしますよね。ケンタが成し遂げた苦手克服は、夢ではなく紛れもない現実。子どもは大きな勇気をもらえるのではないでしょうか。

「自分にもできそう」と思わせるすごさ

 何も考えていないように見えて、じつはケンタを始めとする困っている人たちを大なわ1本で助けていくカエルおとこ。いったい何もの? その答えは子どもたちの想像に託されています。

 著者のシゲリカツヒコさんは、現実と絵本の見分けがつかなくなるほど引き込まれる、リアルかつ緻密な描き込みが魅力の作家さん。前作『だれのパンツ?』には探し絵要素が盛り込まれていましたが、本書にも「隠れている6人の忍者」や「大なわのグリップの色の変化」など細部を楽しめるような工夫が凝らされています。

 苦手克服の方法をユーモアたっぷりに教えてくれて、自分にもできるような気にさせてくれるのが本書のすごさ。見事な絵や驚くような展開を楽しめますし、苦手を克服したいお子さんにもぴったりです。

文=吉田あき

『なわとびょ〜ん』(シゲリカツヒコ/KADOKAWA)

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