ハリー・ポッターとか、みんな石を巡って争ってるけど、石ってそんなに大事なの? 賢者は鉱物を知る!

文芸・カルチャー

公開日:2021/5/29

おもしろい石と人の物語
『おもしろい石と人の物語』(大平悠麻/総合科学出版)

 思い返せば、子供の頃は図鑑を眺めるのが大好きだった。特に科学の分野は、その不思議さに興奮したものである。それが学校で勉強するようになると興味を失っていったのは、授業がつまらなかったからだろう。いやいや、人のせいにするのは良くない。でも、学校の先生自身がそう言っている。この『おもしろい石と人の物語』(大平悠麻/総合科学出版)の著者は現役の高校教師で、専門は生物だが理科の教員だから「物理」や「化学」なども教えているそうで、本書では「地学」の分野となる「鉱石」について解説している。執筆のきっかけは、著者が学校の授業で教えてみたら全然面白くなかったというところから。「教える側が面白くないんだから、教わる子どもたちも面白くないに決まっている」と考え、現場の教師として授業用に「面白い鉱物と岩石」のノートを作り、その内容をまとめたのが本書だとのこと。

「鉱物」+「岩石」=「鉱石」

 先ほど「鉱石」と書いたが、それは「鉱物」と「岩石」を合わせた用語。鉱物というのは「その成分だけでつくられている純粋な結晶」のことを指し、例えば水晶は「二酸化ケイ素」という成分の鉱物。そういった鉱物の集合体、「いろいろなものが混ざっている結晶の集まり」が岩石となる。

 興味深いのは、ヒトが「石を区別する」ことなのだとか。「ヒトと動物の違いは何か」という問いに、「ヒトは道具を使うが他の動物は使わない」という答えを見かけることがあるが、実のところ道具を使う動物はさして珍しくない。本書でも、カラスが餌を隠すためなどに石を使っていることから、その賢さが分かるとしている。しかしそれでもカラスは、やわらかい「滑石(かっせき)」と鋭利な「黒曜石(こくようせき)」を使い分けるということはしない。一方、人間は鉱物であるレアメタルが象徴的だが、その性質を利用し、目的によって使い分けている。

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日本は資源が少なくて良かった?

 著者は、「アフリカ大陸は不幸なことに、たくさんの鉱物資源に恵まれています」と語っている。恵まれているのに、なぜ不幸なのか。石油資源の争奪が近年の戦争や紛争の原因となったように、アフリカでは地域内で鉱物資源を独占しようと部族間の内戦が起き、大国がそれぞれの部族の後ろ盾となったことから、戦争が長期化した歴史がある。かつて日本も資源欲しさに戦争を始めてしまったが、目立った資源が乏しいために諸外国から寄ってたかって狙われなかった点においては、運が良かったと考えることもできるかもしれない。

 

「ゲーテ石」と「モーツァルト石」の命名のいきさつ

 石のなかには人名が付けられているものもあり、その命名のいきさつが面白い。『ファウスト』や『若きウェルテルの悩み』などの作品を残した、ドイツを代表する文豪・戯曲家として知られるゲーテは自然科学にも精通しており、ドイツ鉱物学会の創立会員だったという。その功績もあって、日本で「針鉄鉱(しんてっこう)」と呼ばれる鉱物には「ゲーテ鉱」の名が冠されている。

 他にも人名が付いた石として「モーツァルト石」というのがあって、あの天才音楽家にも何か鉱物にまつわるエピソードがと思いきや、「モーツァルト没後200年」という節目の年に発見されたからなのだとか。それだけでは、あまりに理由として弱い。新鉱物名の採用は、国際鉱物学連合の委員会において委員の三分の二の賛成を得なければならない。そこで発見者たちは、モーツァルトが生涯最後に完成させた歌劇『魔笛』の作品中に鉱物学の知識がちりばめられているという理由を添え、委員会で「まあ、いいか」と採用されたそう。

期待される現代の「賢者の石」

 ところで、ハリー・ポッターなどのファンタジー作品で語られるような、「賢者の石」が実在する可能性はあるのだろうか。作品によっては魔法の力の源になるが、本書によると「モナズ石」に含まれている「トリウム」という放射性元素が、将来のエネルギー問題を解決する鍵になるかもしれないそうだ。というのもウラン核燃料と較べてトリウム核燃料は理論上、炉心融解しないとされており、実用化できれば完全廃棄が難しいプルトニウムを火種として使用し消滅させることが可能となる、次世代原子炉の材料の候補だからだ。

 ただし解決しなければならない課題として、トリウムは現在使われている原子炉の配管を腐食させてしまうため、トリウムの腐食に耐えられる素材の開発が必要だという。

 石を使いこなすには、賢者の知恵も必要ということか。

文=清水銀嶺

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