障がいのある子の親兄弟から共感の嵐!“きょうだい児”に捧げる小児科医による絵本「みんなとおなじくできないよ」
公開日:2021/6/7
障がいのある子の兄弟姉妹「きょうだい児」。彼らとその家族に読んでほしい絵本が発売された。『みんなとおなじくできないよ 障がいのあるおとうととボクのはなし』(湯浅正太:作、石井聖岳:絵/日本図書センター)だ。
「きょうだい児たちへ捧げる」思いがこめられた本作は、現役小児科医が作った絵本である。
作者は亀田総合病院小児科部長・湯浅正太氏で、イラストは絵本作家・イラストレーターの石井聖岳氏が担当。湯浅氏は“自身が子どもだった頃の経験”をもとにして、病気やハンディキャップをもつ子どもときょうだいたちの支援に取り組んでいる。
本作に興味をもったあなたの家族の中に、障がいのある子とその兄弟姉妹がいるのならば、ぜひ親子で一緒に読んでみてほしい。またきょうだい児たちが幼いのであれば読み聞かせてあげてほしい。
実体験に基づいたボクと障がいのあるおとうとのおはなし
この絵本は障がいのある「おとうと」と小学生の「ボク」のおはなし。実は作者の湯浅氏も「きょうだい児」であり、本作のエピソードは実体験によるものなのだ。
ボクはおとうとのことが好きだし心配だ。しかし一方で、ちょっと恥ずかしく感じている。「きょうだい児」たちはそんな複雑な思いと懸命に向き合う。彼らならではの悩みや不安、孤独感を当事者の視点から書いている。
おとうとは皆と同じことができない。「普通のこと」が上手くやれないのだ。体の使い方、読み書きも、満足にはできない。
だから家でもお母さんとお父さんは、おとうとにかまけてばかり。ボクはひとりぼっちのような気持ちになる。たとえ自分がお兄ちゃんであっても“我慢し続ける”のは大変だ。
なお本作に親の心理描写はほぼないが、障がい児を育てることの大変さは、当事者でなければなかなか想像することができない。だからこそ、小学生のボクにそれを想像しろというのは酷なことである。
「おなじくなくていいんだよ」きょうだい児の“グチャグチャ”になっていたこころが解きほぐされる
おとうとは、ボクのことが大好き。兄が複雑な感情でいるとはつゆ知らず、おかまいなしにくっついてきてニコニコと笑う。ある日、おとうとが何人かに追いかけられているのをみて、ボクはもちろん助けにかけよった。ボクにおでこをおしつけながら、ふるえるおとうとはこういった。
おにいちゃん
みんなと
おなじくできないよ
ボクはそのときに初めて、おとうとの心の内に気付く。おとうとは皆と同じようにできない悔しさや情けなさを抱えていたのだ。自分はそんな気持ちは知らず、おとうとをわかろうとしていなかった。
いまだいじなことはなんなのか。くやしなみだをながしながら、かんがえるようになったボク……。
本当に強い説得力がある本だ。絵本とはいえぐいっと最後まで読まされた。実は本稿のライターも「きょうだい児」だからだ。今回たまたまこの絵本と出会い、小さな子どもだった自分の感情を思い出す。
うちは重度な障がいで寝たきりの姉がいた。親はそんな姉の面倒をみていて、せいいっぱい。それは見ていてわかったが、寂しい気持ちはあった。
また本音を言えば恥ずかしさもあって、自宅に呼ぶ友達も限られていた。誰にでも言えることではなかった。私は本作でその頃の感情と今向き合い、いろいろと腑に落ち、すっきりした。
ボクが複雑な気持ちと懸命に折り合いをつけ、たどり着いた答えとは……? 彼がおとうととどう向き合うことにしたのかは、ぜひ読んで確かめてほしい。
繰り返しになるが、もしあなたが兄弟姉妹の親ならば、本作を読み聞かせ、そしてできれば話し合ってみてほしい。きょうだい児は皆、私と同じようにグチャグチャした気持ちを抱えているはずだから。
寄り添ってあげて、少しずつでも理解させて、素直な感情を認識させてあげてほしい。そしてきょうだい児はいろいろな意味でひとりじゃないこともまた、教えてあげてほしいのだ。
文=古林恭
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