栄光も掴めず客席もまばら…。「最弱」とまで言われた横浜DeNAベイスターズが人気球団になるまで

ビジネス

更新日:2021/6/29

砂時計のくれた恋する時間
『ベイスターズ再建録 「継承と革新」その途上の10年』(二宮寿朗/双葉社)

 今年10年目を迎え、木村洋太副社長が社長に就任した横浜DeNAベイスターズは、人々の意表を突くイベントがメディアによく取り上げられる人気球団。女性や子どものファンも多く、2019年シーズンには228万3524人という過去最高の観客動員数を記録した。

 しかし、今日のような姿を確立するまでには様々な紆余曲折があった。それを明かしたのが、『ベイスターズ再建録 「継承と革新」その途上の10年』(二宮寿朗/双葉社)。本書には木村社長をはじめ、初代監督の中畑清氏やGMとしてチームの骨格を作った高田繁氏など、20人を超える球団職員が登場。トライ&エラーを繰り返し、球団再起の道を模索した日々を振り返る。

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「お荷物球団」から唯一無二の人気球団になるまで

 1998年のセ・リーグ優勝&日本一以降、ベイスターズの成績は低迷。横浜スタジアムには閑古鳥が鳴くようになり、2011年シーズンの観客動員数は年間110万人台と、12球団最低の数字を記録。「お荷物球団」という心無い言葉を言われることもあったという。

 そんな時、マルハ(現:マルハニチロ)やTBSに代わり、IT企業であるDeNAがベイスターズの経営権を握ることに。世間的にも注目が集まったこの買収を、不安な気持ちで見ていたファンは多かった。

 ところが、DeNAはこれまでにないユニークなイベントやサービスを次々と実行し、今まで球場に足を運ぶことがなかった人たちのハートを掴むことに成功。「客が集まらない」と陰口を叩かれていたスタジアムを10年で、チケットが取れないスタジアムへと変えた。

 その裏には知られざる、熱い人間ドラマが。例えば、横浜の夏に欠かせない「YOKOHAMA STAR☆NIGHT」。こうしたイベントは、「ベイスターズは何か面白いことをやる」というイメージを定着させたいという想いもあって実施され始めたものだったが、2013年には悲しい出来事が起こる。試合結果に満足できなかった一部の観客が、無料配布されたペンライトをグラウンドに投げ込んだのだ。

 大好きなチームに勝ってほしいという想いが募りすぎたゆえの行動であったのかもしれないが、この騒動は試合に全力投球した選手や球団としての在り方を模索していた球団関係者の心をへしおった。

 しかし、そんな出来事すらもよりよい球団を作るためのプロジェクトに活かしていったのがベイスターズの凄いところ。勝っても負けても観客にスタジアムで過ごした時間を一生の宝物だと思ってもらいたいと考え、職員は仕事終わりに東京ディズニーシーへ行き、ホスピタリティや演出法などを学んだり、人気アイドルグループをスタジアムに呼んだりし、球場に来ること自体を楽しめるように工夫。往年のファンに新しい野球観戦の楽しみ方を打ち出しながら、新たなファンの獲得にもつなげていった。

 こうしたアイデアは球団関係者のひとりひとりが野球を愛し、ファンを愛し、エンターテインメントを愛していたからこそ、生まれたもの。選手や共に働く仲間のポテンシャルは最大限に活かしつつ、面白そうだと思ったことは失敗を恐れずに取り入れていったベイスターズ。彼らは「継承と革新」を成功させた、唯一無二の球団となっていったのだ。

 人を笑顔にするには、まず自分自身が思いっきり楽しむことが大切……。そう気づかせてもくれる本書は、心をとらえて離さないエンタメの生み出し方が学べるビジネス書でもある。

地域からも愛される「横浜のシンボル」になるために

 革新的なイベントで観客動員数を着実に増やしていったベイスターズにはもうひとつ、力を注いでいたことがある。それは、野球振興だ。

 DeNAは当初から、地域密着・地域貢献していくことでベイスターズファンを掘り起こしていかねば、生き抜いていく未来はないと考えていた。そのため、日本少年野球連盟や日本中学体育連盟に頼み、各市で野球教室を開催する。

 2015年には球団創設5周年を記念し、神奈川県内の小学校や幼稚園、保育園に通う約72万人の子どもたちへベースボールキャップをプレゼント。地域から愛される球団を目指しながら野球に興味を持つ子を増やし、未来の野球業界をも明るくしていこうと考えた。

 ハブとなり、ファンや地域を繋げてきたベイスターズは元親会社であるマルハニチロとはスポンサーシップを、TBSとは放映権契約を結ぶなど、これまでの縁も大切にしながら横浜のより大きなシンボルとなるため、今日も奮闘中。

 これまでにないユニークなイベントやサービスで野球観戦の概念を変えたと言っても過言ではないベイスターズはこれからも、“自分らしく楽しめる野球”を私たちに提供し続ける。次はどんなニュースで世間をあっと驚かせてくれるのか、楽しみだ。

文=古川諭香

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