「スイーツ男子」「ひとりっ子はかわいそう」「家事、手伝うよ」…目指せ絶版!なる早で消えてほしい駄言(だげん)辞典

暮らし

公開日:2021/7/6

『早く絶版になってほしい#駄言辞典』(日経xwoman/日経BP)

 2020年11月、日本経済新聞の紙面で『「#駄言辞典」を付けて、駄言にまつわるエピソードをつぶやいてください』という募集がかかり、複数媒体に約1200の投稿がなされた。『早く絶版になってほしい#駄言辞典』(日経xwoman/日経BP)は、その中から選ばれた400以上のフレーズを辞典のように「女性らしさ」「キャリア・仕事能力」「生活能力・家事」「子育て」「恋愛・結婚」「男らしさ」の6つに分類し、アーティスト・教育者・経営者・政治家へのインタビューも盛り込んでまとめあげた一冊だ。

 本書において駄言は、「古いステレオタイプによって生まれたひどい発言」と定義されている。

「女はビジネスに向かない」のような思い込みによる発言。
特に性別に基づくものが多い。
相手の能力や個性を考えないステレオタイプな発言だが、言った当人には悪気がないことも多い。

 単語のみ(才色兼備、スイーツ男子、主人)か、ワンフレーズ(「家事、手伝うよ」「女性ならではの視点を生かして」)のものが中心で、長いものでも「電球の取り替えなど頼みたいことがあるときはご主人の機嫌がいいときに言ってみましょう。きっと快く引き受けてくれますよ」くらいなのでスイスイと読み進められるが、駄言ひとつひとつの背景にある課題の根深さや、「これも駄言なのか、しまった、何がいけなかったのだろう……」と身に覚えを感じることによって、しばしば読者はページをめくる手を止めざるを得ないはずだ。

advertisement

 本書のユニークな点は、「絶版を目指す」というコンセプトだ。つまり、「この本に載っている言葉がより多くの人に吟味されて、使われなくなって、悩みを抱える人が少しでも減りますように」という願いが込められていることだ。時折出てくるマンガ風のイラストは、駄言を言う/言われる側の双方の心持ちや気まずいシチュエーションをコミカルに描いているが、駄言を言う人を茶化すためにそのような編集がされているわけではない。むしろ「人のふり見て我がふり直せ」という言葉が示すように、協力して駄言の撲滅を目指そうという歩み寄りのスタンスを、「絶版」という言葉は意味している。

 駄言をただ厭うのではなく一歩踏み込んで考えたとき、「駄言をなくす」という目標を飛び越えて、「駄言はなくならない」という境地に至るようだ。ポーラの及川美紀社長は「駄言は今後も増える」という見解を、肯定的なスタンスで示している。

今は「女らしさ」「男らしさ」が駄言として取り上げられることが多いですが、これをクリアした先には新たな駄言が出てくるはずです。これは社会の気付きであり、変化を生み出す機会でもあると思います。

 他のインタビュー回答者たちも、「多様な意見があることは自然なので『自分は正しい』とは決して思わないことこそが大切だ」語っている。

「ひとりっ子はかわいそう」
「華を添えに来て」
「そんなに働いて、子どもがかわいそう」
「男が育休取って何するの?」
「女性は子どもを産んで一人前」
「あいつ時短だから使えないんだよな」
「女の子なんだから、お花の種類くらい知ってなさい」
「それでも男か」
「クリスマス一人って、大丈夫?」
「女性に優しい職場」

 ランダムに選んだこれら10の駄言を見て、ムッときた人、言われたことがある人、耳タコで怒り心頭に発している人、言ったことがある人、なぜアウトなのか一瞬考えた人……それぞれの捉え方、感じ方があるかと思う。駄言が発されたときに「是非を問う」というステージでストップしてしまわずに訂正の指摘をすることができ、言ってしまった側も無意識の思い込みを自覚した後は、しっかりと正すことができる。そんな理想的な社会環境へと続く茨の道で、いつでもトゲ抜きができる救急箱のような頼り甲斐がある辞典だ。

文=神保慶政

あわせて読みたい