猫も昔は“こわい動物”だった……大人も子どもゾっと楽しめる「おばけ話絵本」シリーズ『ばけねこ』

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/7

『ばけねこ』(杉山亮/ポプラ社)

 今でこそ猫は“かわいい動物”代表のような顔をしているが、ほんの数十年前までは“こわい動物”として睨みをきかせる存在だった。年老いた猫は化け猫になって人に仇するとされ、ろくろ首や一つ目小僧と並ぶお化け屋敷の常連組。夏ともなれば放映される化け猫映画などでは、血まみれの巨大猫が人を食い殺すのは定番中の定番だった。

 そんな“こわい方の猫”を懐かしく思い出させてくれるのがこの絵本、『ばけねこ』である。

 本書はポプラ社が刊行する「おばけ話絵本」シリーズの中の一冊で、文章は杉山亮氏、絵はアンマサコ氏が手掛けた。

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 杉山亮氏は「ミルキー杉山のあなたも名探偵」シリーズが人気の児童文学作家で、現代を舞台にする作品を多く発表する一方、金太郎やわらしべ長者などの民話を題材にした絵本も手掛けていて、本書も昔話がベースになっている。

 アンマサコ氏はイラストから造形まで幅広いジャンルで制作するアーティストで、今春アニメ化された話題の絵本『どすこいすしずもう』の著者としても知られている。柔らかなセピアの色調で創られる作品の数々は優しげで、どこかノスタルジックだ。

 さて、「むかしむかしの おはなしです。」で始まるこの物語は、「ねこみみやま」の麓にある小さな村に住む女の子が主人公である。

 ある日、飼い猫のタマが突然姿を消した。心配した女の子はあちこち探し回るが一向に見つからない。そんな女の子に、父親は「あきらめろ。タマはきっと、ねこみみやまにいったんだ。」と教える。猫は歳をとると“ねこみみ山”に登り、そこで最期の時を迎えるとの言い伝えがあるのだ。

 だが、女の子は諦められなかった。そして、ねこみみ山に行きさえすればタマに会える、と考えた。そこで、「山に入った者は二度と戻れない」という父の警告を無視し、独り山へ向かった。

 しかし、森に入ったところで霧が出てきて、辺りはどんどん暗くなってしまう。すっかり道を見失って困り果てていたところ、遠くに大きな一軒家を見つけ、助けてもらおうとするのだが……。

 化け猫話は、時として残忍な結末を迎えることもあるが、本書はゾッとする場面もありながらも心温まる結末が待っているので、繊細なお子さんでも安心して読めるだろう。その辺り、前歴は保父だったという杉山氏の匙加減が絶妙だし、アンマサコ氏のユーモラスな絵柄が恐ろしい化け猫たちにも可愛げを与えている。

 死期が近い猫が姿を消すというのは全国的に広く知られた俗信で、少なくとも江戸時代にはすでに語られていた。また、ねこみみ山なる名称も、猫の耳のように同じぐらいの高さでそびえる双峰を持つ山によくつけられる名前で、全国各地にある。もしかしたら、今住んでいる地域にも似たような伝承があるかもしれない。

 子どもとともに過ごすひと時、私たちの先祖がこうした話を語り継いできた理由や、女の子が幸せな結末を迎えられた訳について、ちょっとだけ話し合ってみるのもいいかもしれない。きっと、楽しくて、でも考えさせられる会話になるだろうから。

文=門賀美央子

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