怠けているのではなくどうしても頑張れない人と、どう付き合うとよい? ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』続編

社会

更新日:2021/7/6

どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2(新潮新書)
『どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2(新潮新書)』(宮口幸治/新潮社)

 努力する者は報われる。怠ける者は報われない。これが社会の常識だ。では、努力したいのにできない者はどうなるのだろうか。

 非行少年たちが認知の歪みから非行に走っている可能性を示したベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治/新潮社)の続編となる『どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2(新潮新書)』(宮口幸治/新潮社)は、前著を書き上げた直後に著者がもった「頑張れない人たちはどうなるのか?」という疑問から始まった書だ。ケーキの切れない非行少年たちが認知の歪みから「頑張れない」「頑張ってもできない」のであれば、私たちは知らず知らず、彼ら彼女らを虐待しているのかもしれない。

 つまり、「頑張れば支援する」「やる気のある人を応援する」「努力をほめる」という言葉は、頑張れない人たちを傷つけているかもしれない、という可能性を本書は指摘する。頑張れない人は、怠けているわけではない。「頑張れば支援する」という言葉の逆には、「頑張らなければ支援しない」という脅しともとれるメッセージが潜んでいる。

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 かといって、「頑張らなくてもいい」「ありのままでいい」「もっと手を抜こう」「嫌なことは我慢しなくていい」という昨今の風潮も著者に言わせれば違うそうだ。頑張れない人たちは、頑張りたくないわけではない。支援者が支援する本人の意向を確かめずにこれらの言葉を鵜呑みにすれば、頑張れない人の可能性を奪ってしまう可能性がある、という。

 本書によると、皮肉なことに本当に支援が必要な人は、私たちがあまり支援したくないと感じる人だという。頑張れない人は物事を達成できず、「また叱られた」「自分なんて駄目だ」というネガティブ思考・被害者思考をもっており、支援しようとしても嘘をつく、暴言を吐く、暴力をふるうなどの行動を取ることが少なくない。支援者にとって魅力的に映らない人たちなのだ。支援する大人は、「支援したくないから支援しなくてはならない」という矛盾と向き合わなくてはならない。

 さて、頑張れない人を支援するためには、そもそも頑張れないメカニズムと、支援の考え方を知っておかなくてはならない。

 著者は、頑張れない人は認知の歪みが原因である可能性を前著で示した。認知機能が低ければ自分の今の姿を正確に捉えられず、「自分には問題はない」「自分はいい人間だ」と思っているため、自分を変えようという気が生じない。また、見通しが弱いため、頑張る動機づけに欠け、すぐに努力を諦めてしまう。本書は見通しの弱さについて、「漢字を覚える宿題」を例に挙げている。

【通常の見通し(5ステップ)】
漢字を覚える→ほめられる(1ステップ)→やる気が出る(2ステップ)→テストでいい点が取れる(3ステップ)→いい学校に行ける(4ステップ)→いい仕事につける(5ステップ)

 頑張れる人は、漢字を覚えたのにほめられなくても、テストでいい点が取れるから、将来はいい仕事につけるから、と漢字を覚えるモチベーションを維持する。しかし、頑張れない人は、ほめられなければ漢字を覚えない。

【頑張れない人の見通し(1ステップ)】
漢字を覚える→ほめられる(1ステップ)…ほめられなければ漢字を覚えるのをやめる

 近年増えている短絡的な犯罪も、この見通しの弱さがあるのではないか、と本書は推察している。つまり、例えばお金を奪い取ることに成功しても(1ステップ)、以降の「警察に逮捕される」(2ステップ)、「では違う方法を考えよう」(3ステップ)という見通しがない、というのだ。

 頑張れないメカニズムを理解できれば、支援者は次の主な3つから取るべき行動がわかる。

(1)「頑張ればなんとかなる」と、さまざまな方法で働きかける
(2)「もう頑張れないだろう」と受け止め、無理をさせないようにする
(3)頑張れない背景を考え、付き合っていく

 理想は(3)だが、本書はこの態度は誰もが取れるほど簡単なものではない、としている。そのため、(3)を3つの工程に分解し、方法をわかりやすく具体化している。本記事では簡単に紹介する。

 まず、「安心の土台」をつくる。「自分を見捨てない存在である」という安心感を、支援する人に与える。次に、伴走者の存在を知らせる。チャレンジをサポートする人が、頑張れない人に勇気を与える。最後に、チャレンジできる環境を設ける。実際、刑務所や少年院を出て就労した少年たちは、チャレンジできる環境だけを設け、「後は頑張れ」と放り出されることが少なくないという。「安心の土台」と「伴走者」があってこそ、チャレンジできる環境が生きる。

 その人が頑張っているのか、頑張れないのかは、本人しかわからない。大人は短絡的に「頑張っていない」「怠けている」と烙印を押すのではなく、その人の特性をきちんと理解した上で付き合い方を考える必要がありそうだ。

文=ルートつつみ (@root223

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