21歳大学生のデビュー作が松本清張賞受賞! 女子高生が大麻栽培!? インモラル小説の“中毒性”

文芸・カルチャー

公開日:2021/7/22

万事快調〈オール・グリーンズ〉
『万事快調〈オール・グリーンズ〉』(波木銅/文藝春秋)

 今思えば、高校時代は目に映るすべてのものに対して、心の中で中指を立てていた。毎日が息苦しかったし、すべてが腹立たしかった。レモネードみたいな甘酸っぱい青春なんてどこにある? そんな風に思いながら高校生活を送った人ならば、この作品に危ういほど惹かれてしまうのではないだろうか。

『万事快調〈オール・グリーンズ〉』(波木銅/文藝春秋)は、第28回松本清張賞を選考委員の満場一致で受賞した新時代小説。著者の波木銅氏は、弱冠21歳の現役大学生というから、なんと恐ろしい才能だろう。女子高生たちのキケンな日常をユーモラスに描いたこの作品は、中毒性抜群。辻村深月氏は「読みながら、そのセンスの良さに何度も唸り、選考委員としてこの作家のデビューに立ち会いたいと思った」と評し、京極夏彦氏は「先を見通しているのか、後ろが見えていないのか。でも、少なくとも作者には今がはっきり見えている。何者なのか見極めたい」と評す。クライム小説としても、シスターフッド小説としても抜群に面白い。名だたる小説家たちをあっと驚かせた大注目の作品なのだ。

 物語の舞台は、茨城県東海村。落ちこぼれの工業高校機械科に通う女子高生・朴秀実は、鬱屈した日々を過ごしていた。スクールカーストはもちろん底辺。同じく底辺に属する岩隈真子とは話はするが、別段仲がいいわけではない。ある時、彼女は、クラスの中心人物・矢口美流紅と話をするようになる。ひょんなことから大麻の種を手に入れた朴は、岩隈、矢口を引き連れ、園芸同好会を結成。ド田舎からおさらばするために、学校の屋上で大麻栽培を始め、一攫千金を狙うのだった。

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 未成年の飲酒、タバコ、深夜外出、そして、大麻栽培……。この小説には、あらゆる違法がてんこ盛りだ。女子高生たちのキケンな思考回路に「おいおい、なんでその発想になるんだよ」とツッコミを入れずにはいられない。彼女たちの暮らしは、「万事快調」どころか、毎日が「万事休す」。だけれども、意地の悪いユーモアを吐く彼女たちの会話は最高で、ついクセになってしまう。会話の端々に登場する映画・小説の名前からは、サブカルにどっぷり浸かった彼女たちの姿が垣間見え、自分自身の痛々しい高校時代をも思い出させられ、懐かしいやら恥ずかしいやら。ジェットコースターに乗せられたように危なっかしく突き進む物語から目が離せなくなってしまう。

 この作品には、10代ならではの感情が生々しく描かれる。地元への強いコンプレックス。家族への嫌悪感。日々の閉塞。根拠のない自信と、全能感。強い自己愛……。3人の高校生たちにはそれぞれ悩みがあるのに、互いにそれを完全には明かさない。ベタベタつるむわけではなく、ただなんとなく集まっただけ。大麻栽培というイリーガルな方法でカネを稼ぐ彼女たちは、そうすることでしか生きられない。そこには「格差」という大きな問題が見え隠れしているのだ。

 著者の波木銅氏によれば、この作品は、映画『万引き家族』や『パラサイト 半地下の家族』と同じ系譜の物語として描いたものなのだという。波木氏の言葉を借りれば、これらの作品は「不平等を強いられたプレーヤーたちが、ある種の反則をもってしてでもカードを力ずくで奪いにいく」物語。本作で波木氏は、「不公平なゲームに抗うための手段としての友情や連帯、そして怒りとユーモア」を描きたかったのだそうだ。

 この作品を読めば、息が詰まる毎日に束の間、晴れ間が見える。時代の閉塞感も、小説のセオリーも、すべて蹴散らすこの物語の爽快感・疾走感を、ぜひあなたも体感してみてほしい。

文=アサトーミナミ

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